Sustainability Frontline サステナビリティをカタチに
PFASに高まる関心 健康か利便性か

(Photo by kelly marken via adobestock)
PFASの話題を目にすることが増えました。
「PFAS 東京 多摩地域の住民に血液検査 “約2.4倍の血中濃度”」
「静岡の化学工場 従業員の血中から高濃度のPFAS検出」
「PFAS、肥料からも検出 実際に購入して調べてみた 『再利用』進めても大丈夫?(上)」
2021年に公開された映画『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』は、1990年代から米国でPFAS汚染に立ち向かってきた弁護士、ロバート・ビロット氏をモデルとした作品です。その原作であるビロット氏の著書『毒の水:PFAS汚染に立ち向かったある弁護士の20年』が今年発売され、そのほかにもPFAS関連の本がこの数年、出版されています。
そもそもPFASとはどのようなもので、何が問題なのでしょうか。そして企業はPFASに関して、どのようなコミュニケーションをとっているのでしょうか。
“フォーエバーケミカル”と呼ばれるPFAS
PFASとは、有機フッ素化合物の総称です。世の中に1万種類以上あると言われ、熱や紫外線に強い、水や油をはじくなどの特徴を持っています。便利な性質を活かし、フライパンや食品包装、半導体材料、アウトドアウェア、消火剤などに広く使われ、私たちの暮らしを支えてきました。
しかしPFASの一部は、人体への有害性があると指摘されています。がんのリスクが増す、子どもの発達に影響する、免疫力が低下するなど、影響は多岐にわたります。このため国際的な規制強化がなされ、PFASのうち一部は、ストックホルム条約で製造や使用が禁止されました。
ではなぜ、有害性の高いPFASの製造や使用が禁止された今になって、問題が明るみになっているのでしょうか。それは、従来使われてきたPFASが土壌や水中に流出しているからです。PFASは自然界で分解されることがほとんどなく、「フォーエバーケミカル(永遠の化学物質)」と呼ばれるほどに残り続けます。さらには、米軍や企業、行政などからの情報開示が不十分で全容が分からないこと、PFASの安全基準が整備の途上にあることなどが、不安を増幅させていると言えます。
欧米で先行するPFAS規制、そして反対
世界に目を向けると、PFASへの関心は日本に先んじて高まっています。飲料水中のPFASが問題となった米国では、環境保護庁が2023年4月に初めて、飲料水中の6種類のPFASについて国家基準を設定しました。
また、禁止されていないPFASについて、使用を制限する動きがあります。
EUは、2020年に発表した持続可能な化学物質戦略にて、消費者製品に含まれる最も有害な化学物質を禁止して必要な場合のみ許可すること、必須でない限りPFASの使用を段階的に廃止することを明記しています。ただし直近の報道は、2024年の作業計画にこれが掲載されていないことを報じ、産業界の反対で後退していることを非難しています。
PFAS廃止に強い反対があるのは、PFASの代替が難しいケースがあるためです。PFASが使えなくなれば、例えば気候変動対策としてのテクノロジーにも停滞が起きるのではといった懸念があり、安全な代替品の開発に期待が高まっています。ヒトを含む生物の健康を優先するのか、利便性や経済を優先するのか。人類が繰り返し直面してきたこの課題は、PFASにおいても問われているのです。
化学物質の正しい情報と企業の姿勢を
市民の注目と不安が高まるなか、企業のコミュニケーションは一層重要になっていくでしょう。アウトドアブランドのパタゴニアは、PFASフリーに向けたストーリーを日本語のWebサイトに掲載しています。化学大手AGCのWebサイトでは、今年9月にPFASのページが開設されています。
一方、ある大手ファストフードチェーンは、世界の店舗で使用する全包装材から2025年までにPFASを無くすと掲げていますが、日本語版のWebサイトやサステナビリティレポートで進捗を見つけることができませんでした。ある大手家具メーカーは、すでに繊維製品でのPFAS使用を中止していますが、こちらも日本語の情報を見つけることができません。いずれも英語版では記述があります。サステナビリティ情報は気候変動から廃棄物、人権など多岐にわたり、業種によっては化学物質の優先順位が上がりにくいのだと思います。しかしこれからは、正しい情報と企業の姿勢を示す意義が増していくのではないでしょうか。
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