Sustainability Frontline サステナビリティをカタチに
「助け合える関係性」で、レジリエントな組織や社会へ

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先日、脳性麻痺当事者である東大先端科学技術研究センター准教授・熊谷晋一郎氏の「自立とは依存先を増やすこと」という言葉に、深く考えさせられました。一般的に「自立」の反対語は「依存」であると捉えられがちですが、人はさまざまなモノや人に依存しなければ自立して生きることはできないと語られていました。
困難や課題を乗り越えるカギ 「孤立させない」NPOの取り組み
この言葉には、エコネットワークス(ENW)の寄付先である福島のNPO法人「しんせい」の取り組みにも通じるものを感じました。しんせいは、東日本大震災と福島第一原発の事故によって、居場所や仕事を失った多くの障がい者の方々を支援するために立ち上げられたNPOです。被災当時、障がい者と社会のさまざまな立場の人たちが行き来できる橋が絶たれ、孤立してしまったことにより、経済的・社会的自立が危うい状況になったそうです。そこで、福島県内の13の福祉事業所が連携するネットワークを立ち上げ、製菓・クラフト事業や農福連携事業「山の農園」などを通じた仕事づくり、さらには生態系保全や食品廃棄物削減など幅広い取り組みをしています。助け合いのネットワークを広げてきた理事長の富永 美保さんが、「平時から有機的に機能する場が、災害時のレジリエンスにつながる」と話されていたことが印象的でした。
今社会では、誰にも助けてと言えないような孤立した状態の中で、人びとが追い詰められ、貧困や虐待といった問題が深刻化しています。北九州を拠点に30年以上にわたり、生活困窮者や孤立状態にある人びとの生活再建を支援してきたNPO法人「抱撲(ほうぼく)」も、「ひとりにしない」支援を掲げて、居住・就労支援、ホームレスの自立支援、子どもの学習支援などさまざまな取り組みをしています。抱撲は2025年に、北九州市内にある特定危険指定暴力団・工藤会事務所跡地に、複合型社会福祉施設を建設して「希望のまち」をつくるプロジェクトを進めています。このまちのコンセプトは、次のように記されています。
その「まち」は、「孤立する人がいないまち」であり、「誰もが助けてと言えるまち」。
それは「お互い様のまち」であり、「助けられた人が助ける人になれるまち」。
「助け合い」と聞くと、もう見飽きたような、ありきたりの言葉のように思えるかもしれませんが、「他人様に迷惑をかけてはいけない」という意識が強い日本社会ではまだまだ希薄なところがあります。しかし、貧困や高齢化、子育てにおける困難、虐待、地域の環境問題や防災など、さまざまな社会課題の解決に欠かせない土台とも言えるものです。
誰もが活躍できる職場づくり 「個」だけでなく「支え合える関係性」に注目

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これは、社会課題解決に限らず、企業の職場づくりにおいても同じことが言えます。近年、多くの企業が「人的資本経営」に注目し、DE&Iやウェルビーイング、能力向上などさまざまな角度から、誰もが活躍できる職場づくりに取り組むことの重要性が高まっています。
そうした中、一人ひとりの特性や能力、キャリアプランに合わせた教育プログラムを軸に、新卒・中途社員を育成する「オンボーディング」やマネージャー人材・経営人材の育成プログラムなど、個々人の能力・スキルの育成に焦点が当てられたさまざまな施策が進められています。ただ、誰もが活躍できる職場の実現には、こうした「個」としての能力向上とともに、多様な人材がお互いに連携し支え合うことが欠かせません。一人で何とかしようと抱え込むのではなく、誰かに頼れる・支え合える関係性や意識・環境づくりは、課題や危機に直面した際に適応・対処できる「レジリエンス」を育成する観点からも、またメンタルヘルスの観点からも重要です。
企業でも、こうした視点での取り組みが見られます。例えば、アサヒグループホールディングスは、人的資本の高度化に向けた施策において、個人の能力向上と合わせて、従業員間の連携やコミュニケーションによる「コラボレーション」を柱の一つにしています。同社では、従業員がお互いに学び合うべく、自身の専門領域を教え合うコミュニティ、地域や部門を超えて自身がメンターとなるメンタリングコミュニティ、対話を行うコミュニティなどに取り組んでいます。その他にも、フォーチュン・グローバル500社の9割で、同じような属性・特性・関心の従業員が集う従業員リソースグループ(ERGs:Employee Resource Groups)が展開され、日本でも広がりを見せています。従業員同士のつながりや対話が強化されるとともに、DE&Iの観点からも注目されています。いずれも、「個」とともに「面」に注目し、誰かに頼れる・支え合える関係性や職場環境につながる取り組みです。リモートワークなど働き方が多様化し、従業員同士がいつもそばにいるわけではない今だからこそ、その重要性は高まっているように感じます。
多様な人びとが支え合う関係性が、困難や危機を乗り越え課題を解決できるレジリエンスにつながる。これは、社会全体のみならず、それらを構成する企業や地域コミュニティなど、さまざまな組織運営において重要なカギになりそうです。
(宮原桃子 コンテンツプロジェクトマネージャー/ライター)
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