リモートOR出社?分断を超えて、エンゲージメントを高める仕組みとは

(Photo by Firmbee via Pixabay)

コロナ禍を機に、導入がいっきに進んだリモートワーク。子育てや介護、通院など個々の事情に対応できる制度として、多様な人材の雇用や活用につながっているという声をよく耳にします。一方、最近ではフルリモートワークを導入してきた企業において、従業員に対し出社頻度を増やすよう要請する動きが目立ちます。

リモートか、出社か……多くの企業で起こっているその間のせめぎ合いが、ときとして組織の分断をあおってしまっているように感じます。

米国で強まる出社を求める動き

昨年から今年にかけて、米国では業務管理の円滑性やチームワーク、イノベーションの創出などの観点から、従業員のオフィス復帰を促す動きが顕著にみられます。Amazonは2023年5月から週3日以上の出社を義務化。同じく、週3日のオフィス勤務を求めているGoogleは6月にハイブリッド・ワーク・ポリシーを更新し、従業員のIDカードでオフィスへの出勤率を追跡するとともに、出勤状況を業績評価の一部として考慮すると発表しました。

また、テスラのイーロン・マスクCEOが、従業員に対して週40時間以上はオフィスに出勤するか、さもなくば会社を辞めるよう、メールで呼びかけ物議を醸したのは記憶に新しいと思います。同氏は、リモートワークができない生産や物流現場で働く従業員の立場を盾に取り、公平性などの観点から「リモートワークは道徳的に間違っている」と主張していました。

従業員の組織離れや不公平感を助長?

野村総合研究所が日米欧8ヶ国で実施した調査では、対象国すべてにおいて就業者のリモートワーク意向が高いと報告されています。働く人の声に耳を傾けず、一方的に出社を強いたり推奨したりする企業の姿勢は、従業員の組織離れを促しかねません。実際、経営陣の態度に疑問を覚え、反発する従業員や退職を申し出る従業員もいるようです。

さらに、イーロン・マスクCEOの主張は「リモートワークは一部の人だけに許される特権」という考え方を世に広めました。こうした考え方によって、リモートワークをしたくてもできない立場にある人びとの存在が認識され、格差是正に向けた動きにつながるよい側面もあります。一方で、従業員間の不公平感を助長し、分断をあおってしまう可能性も否定できません。

出社を強要する企業の動きに、BBCも警鐘を鳴らしています。出欠の追跡や出勤状況を業績評価に含めるやり方は、監視文化を助長させ、従業員から自律性を奪ってしまうのではないかと指摘。また、近接性バイアスによって、オフィス勤務者への評価を無意識に優遇してしまうリスクにも言及しています。

※日常的に物理的な距離が近かったり直接対面で接する時間が長かったりするほど、その相手を優遇して好意的な関係を持ちたいと思う心理的傾向

リモートでも出社でも、分断を生まない仕組みづくりを

(Photo by Tumisuvia via Pixabay)

コロナ禍によって、社会や人びとのライフスタイル、価値観は大きく変わりました。企業は、リモートワークと出社、いずれの形態であっても、従業員のエンゲージメントやエンパワメントを高める新しいあり方を模索する必要があると言えます。

公平性という点では、出社した人がそれだけの理由で優遇されない、新しい評価軸が求められます。他方で、コロナ禍では日常生活に必要不可欠なエッセンシャルワーカーの重要性が再認識されました。リモートワークが難しいこうした人びとに対して、社会的な評価・報酬を高めることで差異をなくしていくことが重要であり、日本でも実際にそうした動きがみられます。

従業員が、その特性に合わせて働き方を選べる仕組みも大切です。私は元々、人の目が気になってしまう性格であり、かつ聴覚が過敏でたくさんの音で極端に疲れてしまうため、前職で会社に毎日出社していたときは大きなストレスを抱えていました。現職に就きリモートワークに切り替えてからは、仕事により集中でき、精神的な負荷が軽減されたように感じます。一方、在宅だと仕事に集中できない人や、さまざまな人と直にコミュニケーションを取りながら仕事をしたいタイプの人もいるはずです。また、特性だけでなく、ライフスタイルや自宅の環境に合わせて働き方を選べるというのも重要なポイントです。

さらに、働き方が多様であっても、業務やコミュニケーションが円滑にいく仕組みも欠かせません。その一つとして、最近では「バーチャルオフィス」を導入する企業が増えています。バーチャルオフィスでは、自身のアバターが自由に動いて同僚に話しかけたり、打ち合わせをしたりとリアル空間と同じような感覚で過ごすことができるそう。多くの企業が頭を悩ませているリモートワークによるコミュニケーション不足を解消する一手として、今後も需要が大きく伸びていくと予想されます。

こうした制度や仕組みを整えていくことは、決して容易ではありません。だからと言って、従来の出勤を前提とした画一的な働き方に戻ればよいのかといえば、そうではないはずです。物理的な管理下に従業員をおかなくても、一人ひとりに裁量権を与えることで「信頼してもらっている」と自分の役割を認識し、パフォーマンスを高めていく人もいるでしょう。それぞれが特性やライフスタイル、事情に沿った形態で働き、そこに公平な評価・報酬制度があれば、自ずと従業員のエンゲージメントやエンパワメントは高まるはずです。ひいては、それが人材不足の解消や、企業のパフォーマンス向上につながっていくのではないでしょうか。

(岩村千明 コンテンツプロジェクトマネージャー/ライター)

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