「見落とされてきた視点」で変革を インクルーシブデザインやジェンダード・イノベーションとは

2023 / 8 / 31 | カテゴリー: | 執筆者:宮原 桃子 Momoko Miyahara
見落とされてきた視点イメージ

(Photo Kiattisak via AdobeStock)

先日、東京農業大学「食と農」の博物館で開催されていた「五感で学ぶ!ちいきのひみつ」展(会期終了)を訪れました。生物多様性が豊かで持続可能な地域社会になっていくように、足元の地域をどのように見つめ、調べ、創り上げていくかを、自然資源や農業、福祉などさまざまな切り口から考える展覧会です。そこで目を見張ったのは、興味深い内容だけでなく、展覧会全体の「インクルーシブデザイン」でした。

当事者にしか気づけない視点やニーズ

会場入り口には、会場や展示に関する点字の案内資料に加えて、触るとわかる立体的な会場マップが置かれているほか、会場内に敷かれた点字ブロック、ロープをたどっていけば各展示物にたどりつける仕掛け、手で触れる展示物の数々など、視覚障害がある方々へのさまざまな配慮がなされていました。

企画を主導した同大学地域創成科学科の町田怜子教授に話を伺うと、視覚障害のある大学院生が当初からこの企画に主体的に関わり、さまざまな専門家にも相談しながら、インクルーシブな展示を創り上げたそうです。最近の美術館や博物館では音声ガイドなども一般的になりましたが、それでも視覚障害がある方々にとって、まずは会場全体がどうなっているかが把握できないと動きづらいこと、何かと触れてはいけないものが多い環境の中で、触ってわかるガイドや展示があるとわかりやすいことなど、「この学生さんの視点から気づかされたことが多かった」と町田教授は話してくれました。

ユニバーサルデザインに対して、インクルーシブデザインとは?

この展覧会に見られるように、企画や開発など初期の段階から、これまでデザインの対象から排除されてきた人びととともにデザインを創り上げることを「インクルーシブデザイン」といいます。すべての人にとって使いやすいデザインを示す「ユニバーサルデザイン」と目指す方向性は同じですが、インクルーシブデザインは、いわゆるメインストリーム(主流)と位置づけられるところから排除されているような人びとの「見落とされてきた視点やニーズ」に特に焦点を当てていること、そしてこれらの人びとと一緒にデザインを創り上げるプロセスが特徴と言えます。

企業で進む「インクルーシブデザイン」や「ジェンダード・イノベーション」

エコネットワークスはさまざまな企業のサステナビリティ推進をご支援していますが、インクルーシブデザインへの取り組みもその一環として進んでいることを感じます。例えば、住宅建材メーカーのLIXILは、玄関ドアに設置すると自動開閉が可能になる、玄関ドア用電動オープナーシステム「DOAC」を開発する際、インクルーシブデザインの手法を取り入れています。

多くの車椅子ユーザーにインタビューを重ねただけでなく、車椅子ユーザーとして障害者の住環境に関するコンサルティングを行うNPOの代表者などを、初期段階から開発アドバイザーに迎えて開発が進められました。その結果、車椅子ユーザーはもちろんのこと、ベビーカーや赤ちゃんを抱えながら玄関を開けることも多い子育て層や、身体や歩行に不自由がある高齢者の方など、幅広い層の人びとから支持されているそうです。

インクルーシブデザインのイメージ

(Photo by aisome via ACイラスト)

また、近年では、性差などの視点を考慮した「ジェンダード・イノベーション(Gendered Innovation)」も広がっています。これまでは、男性の視点やデータを中心に多くの製品やサービスの開発がなされ、女性やその他のジェンダーの視点やニーズが見落とされてきたという問題がありました。例えば、医薬品開発では、主にオスの動物や男性での実験が多く行われてきたことで女性に適さないケースや、シートベルトの開発では、男性の体格の人形で衝突実験を行うことが多かった結果、女性ドライバーが重傷を負う確率が男性より47%高かったという報告がされています。

ジェンダード・イノベーションとは、研究開発やビジネスにおいて、性差やジェンダー差、それらと他の要因(年齢や人種、民族など)の交差性について分析を行うことで、イノベーションを創出することです。企業におけるジェンダード・イノベーションの事例として、例えば愛媛県の井関農機は、従来は男性を念頭に開発されたトラクターに対し、小柄な女性の体格に合わせて調整できる座席や、日焼けを防ぐサンバイザーなどをつけたトラクターを10年近く前に開発しました。今では、男性や高齢者にも人気を博しているそうで、性差を考慮した開発が多様な人びとのニーズに応えるとともに、トラクターの従来の在り方にもイノベーションをもたらしたと言えます。

「見落とされてきた視点」を取り込むことで、新たな価値を

多様な人びとが生きるこの社会では、自分とは異なる人の立場になってみなければわからないことが多くあります。ミクロな話になりますが、私には左利きの子どもがおり、その子育ての中で初めて気づいた小さな不自由さや工夫などがありました。よりマクロな社会全体においても、いわゆるマジョリティやメインストリームと位置づけられる対象に合わせた製品やサービスが多い中で、まずはこれまで「見落とされてきた視点」がないかを見つめなおすことが重要です。これらの視点を持つ人びととともに取り組むことで、ビジネスや研究、そして私たちの日々の暮らしにも新たな価値や変化が生まれ、多様な人びとが生きやすい社会につながっていくのではないでしょうか。

宮原桃子 コンテンツプロジェクトマネージャー/ライター)

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