持続可能な社会をつくるカギとなる技術のあり方

2023 / 6 / 6 | カテゴリー: | 執筆者:野澤 健 Takeshi Nozawa

施設や設備などのハードに加え、適切に維持・管理ができるソフトも同様に大事。開発や支援の文脈において持続可能なあり方を実現する上では欠かせない考え方ですが、国際開発の現場では、その重要性がより一層高まります。

私自身もこれまでにアジア各国を訪れる中で、今は使われていない支援の跡を何度も目にしたことがあります。そうした状況の改善に取り組む団体の1つが、アフリカで水問題解決を目指すスタートアップSunda Technology Globalです。私はその存在を、パナソニックで新興国の課題解決ワークショップに携わっていた方に教えていただきました。同社の代表も、同じパナソニックの出身です。

解決のカギは公平な料金回収の仕組み

ウガンダでは、農村部に住む人々の半数が生活に必要な水をハンドポンプ式の井戸に頼っています。全国に6万基以上あるそうした井戸のうち、適切に管理されているのは全体の20%以下しかなく、農村部の約4割の人々が安全な水にアクセスできていないそうです。

Sunda Technology Globalは、井戸が壊れたままになっていたり、修理に数ヶ月という長い期間を要したりする原因が、維持管理に必要な費用の積み立てができていない点にあることに着目。解決策として、ハンドポンプ式井戸用のプリペイド料金システムSUNDAを開発しました。

既存の井戸に設置できる同システムは、自立式のソーラーシステムと、井戸用スマートメーター、オンライン決済システムからなります。住民は事前にチャージしたタグを差し込むことで井戸が利用でき、使用量に応じて料金が差し引かれます。

それにより、不公平感があった月額固定の料金システムや、現金回収の多大な負荷や持ち逃げリスクといった従来の課題を解消し、従量課金制で、自動で料金を回収・積み立てできるようになります。これまでの実証実験でシステムの有効性が確認され、同社は現在、2023年中の量産化に向けたクラウドファンディングに挑戦中です。

持続可能な社会をつくる技術のあり方

10年以上前になりますが、太平洋の島国を訪れた際、大自然の中で、何羽もの鶏が狭いケージに入れられていた姿が忘れられません。そうした飼育技術が現地に適したものだったか、今でも疑問です。「適正技術」という、現場の諸条件に即した技術のあり方を指す概念があります。私自身はこの領域の専門ではありませんが、適正技術フォーラムの定義を見る限り先述のSUNDAシステムはこれに該当すると言えそうです。

技術が適用される(主に途上国の)現場の社会的・経済的・文化的条件に適し、多くの人々が参加しやすく、環境の保全や修復にも資する技術」と定義しています。

持続可能な社会を実現していく上で、最新技術の力に頼ることは必要です。しかし従来の、効率や規模、成長に価値の重きを置く近代科学技術の体系の単純な延長線上に、目指す未来の姿があるとは思えません。例えば昨今、生物多様性の文脈で注目されているリジェネレイティブ(環境再生型)農業も、適正技術の文脈とあわせて考えていくことで、より広義の視点でその意味合いや可能性を捉えることができるはずです。

生成AIに関する話題がこれだけ盛り上がっている今だからこそ、持続可能な社会に向けた技術のあり方、使い方を考えていく時と言えます。

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(Thumbnail photo by Alessandro Bianchi from Unsplash)

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