物価上昇への対応 大企業から波及させていくために

2023 / 3 / 4 | カテゴリー: | 執筆者:野澤 健 Takeshi Nozawa

昨今の急激なインフレやエネルギー価格の高騰といった状況に対し、グローバルに事業を展開する大企業を中心に、定期昇給やベースアップ、賞与の増額、一時金の支給といった形で賃上げの波が広がってきています。

一方、雇用の7割を占める中小企業では、調査によって、8割が実施予定(東京商工リサーチ)、6割が実施予定(日本商工会議所)、7割が予定なし(城南信用金庫)、実施済み・実施予定が21名以上の企業で55%、5人以下の企業で20%(大同生命)とバラつきがあります。ただいずれの場合でも、大企業に比べて中小企業の方が賃上げに向けた機運が低く、また仮に実施されていても、物価上昇率に相当する4%を超える水準に到達しているところは限られるということです。

大企業の姿勢が問われる、中小企業の価格転嫁の難しさ

中小企業において賃上げが難しい理由の1つに、コスト増加分を十分に価格転嫁できていないことが挙げられます。

経済産業省は2023年2月、価格交渉と価格転嫁に対する大企業の対応についての評価結果を企業名とあわせて公表しました。これは2022年9月に中小企業約1万5千社から寄せられた回答を元に、10社以上が取引先と答えた大企業148社について、「直近6ヵ月における価格交渉」と「コスト上昇分に対する価格転嫁割合」への対応を4段階で評価したものです。

その結果、取引中止を恐れ交渉できないなどにより機械メーカーの不二越が、取引価格の減額などにより日本郵便が、価格交渉と価格転嫁の項目で唯一、最低評価となりました。また関西電力や凸版印刷、佐川急便などが両方の項目で下から2番目に低い評価となっています。一方、旭化成や住友化学、日本製鉄、村田製作所などは、両方の項目で最高評価を得ています。

実態把握にCSR調達アンケートの活用を

本来であれば、適正な取引が行われているかの実態について、政府の調査により実名公表されるのではなく、発注元の企業自らが把握し、できていない場合には改善に向けて取り組んでいくことが望ましいはずです。

そのための方法として、CSR調達アンケートを戦略的に活用していくことが考えられます。CSR調達アンケートは、持続可能なサプライチェーンの実現に向けて、人権や労働、環境面で、サプライヤーの取り組みをチェックし、リスクを把握して改善を促すことを目的に実施されるものです。しかし実際には、質問が形式的なものにとどまっていたり、回答がリスクの把握につながっていなかったりするケースも見られます。また取引先側にとっても、調査への回答自体が大きな負担となります。

アンケートを通じて、取引先での対応を一方的に問うだけでなく、自社との取引における状況についても積極的に確認していくことで、リスクの把握と状況の改善に向けた双方向でのエンゲージメントにつながっていくことが期待されます。

フリーランス・個人事業主に対しても

フリーランス・個人事業主はさらに厳しい状況にあります。物価上昇に加えて、本年10月から施行予定のインボイス制度のインパクトが加わるためです。そうした状況に対し、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会は、新たに課税事業者となるフリーランスが2%以上の価格交渉ができるよう後押しする「インボイス2%~アクション」を展開しています。

かくいう私たちも他人事ではなく、社会情勢を踏まえた雇用パートナー・報酬パートナーの双方に対する適正な報酬の実現に向けて、現在まさに議論を重ねているところです。方針が固まり次第、またウェブサイトでもお知らせしていきます。

 

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(Photo by Cytonn Photography from Unsplash)

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