紛争鉱物のトレーサビリティを真に持続可能なサプライチェーンの構築につなげるために

2023 / 1 / 11 | カテゴリー: | 執筆者:Shiho Funahara

コンゴ民主共和国および周辺の国々などで採掘されたコルタン、タンタルなどの鉱物が、不正なルートを通り武力集団の資金源になってしまう紛争鉱物の問題。これらの鉱物はパソコンや携帯電話など多くの電子機器に使用されており、各国での規制の広がりと共に企業の対応が進んでいます。

紛争鉱物を巡るガイドライン・規制

企業が鉱物調達をする際、複雑なサプライチェーン網を通じ意図せず武力勢力による人権侵害や紛争へ加担してしまうことがないよう、SEC(米国証券取引委員会)やEITI(Extractive Industries Transparency Initiative)、RBA(Responsible Business Alliance)などが企業にトレーサビリティ(商品の生産から消費までの過程の追跡)を求めています。例えばSECのドット・フランク法やEUの欧州鉱物法では、法規制として対象鉱物の使用有無の確認、原産国調査の実施、サプライチェーンのデュー・ディリジェンスの実施・年次報告(アニュアルレポートでの開示や外部監査を受けた紛争鉱物報告書の提出など)が義務付けられています。 

進む企業の取り組みと情報開示

そうした規制の広がりに伴い、企業における鉱物調達の取り組みも進んでいます。中でも先進的に取り組んできたのがIntelです。同社は原材料の人権侵害防止に取り組むResponsible Sourcing Networkが発表した、ドッド・フランク法に基づく企業の対応を分析した報告書「Mining the Disclosures 2019」で、世界で唯一、Superior (90-100)の最高得点を獲得しています。

Intelの「Conflict minerals report」では、リスク特定の戦略・マネジメント方法、サプライヤーと精錬所へのデュー・ディリジェンスの実施結果、精錬所リストなど一連の詳細な開示がなされている他、潜在的なリスクを特定した場合、追加のデュー・ディリジェンスを行い、リスクを検証するための監査プログラムへの参加を促すなど強固なマネジメントが実施されています。また以前の記事でも取り上げましたが、B to B企業でありながらブランディングに力を入れており、紛争鉱物に関する広範な情報を掲載した独自のウェブサイトを開設し、一般消費者向けコンテンツ「あなたのデジタルライフの中にあるかもしれない紛争鉱物」も提供しています。

現地コンゴ民主共和国への影響

一方で、事の発端となったコンゴ民主共和国の状況はというと・・・もちろん、トレーサビリティの強化により武装勢力の資金源の抑制、強制労働・児童労働・不法搾取・暴力の鎮静化につながっているというプラスの側面もありますが、万事上手くいっているのかというと決してそうではなく、規制強化が進んだために逆に起きてしまったマイナスの側面というのも少なからずあります。

たとえば現地の鉱山採掘に携わるステークホルダーを対象とした学術研究調査では、回答者の約半数がトレーサビリティの導入開始により、収入の減少や、健康や教育へのアクセスの悪化を訴えています。背景には様々な要因が考えられますが、コンゴ民主共和国において鉱山産業は唯一の主要産業であり、同国産の鉱物が避けられることで雇用が失われるといった事態や、紛争鉱物への対処が優先され元々貧弱である健康や教育に対する政府の支援が後回しにされてしまうといったことがあります。そして、EITIの報告書でも指摘されているように、同国の鉱山産業の特徴として、ASM(人的小規模採掘者)という形態で働く人が多く、劣悪な労働環境が起きやすく不正取引に関与しやすいといった状況があります。しかしASMの管理にまで十分に手が回っておらず、トレーサビリティの強化などがされたことで、不正取引の更なる悪化を招き実態の把握が困難になり、労働者の収入の減少・貧困につながっている可能性もあるとの見方もあります。

真に持続可能なサプライチェーンの構築とは

紛争鉱物の問題は、政治・経済・社会における様々な問題が複雑に絡み合っています。こうした状況の解決に向け先述のIntelでは、現地鉱山コミュニティとの直接対話が重要との認識のもと、デューデリジェンス・プログラムの補完として政府機関やNGOと協力し、鉱山地帯へクリーンな電力を提供する「Congo Power」や「PACT-RMI青年職業訓練プログラム」などの現地コミュニティ支援の他、ASM(人力小規模採掘者)向けの鉱山コミュニティでのデータ追跡、アクセス、共有のためのプログラム開発支援なども行っています。

紛争鉱物を避け、トレーサビリティを確保するとともに、企業はビジネスと人権の観点から問題を捉え、サプライチェーンの上流で働き暮らす人々の声に耳を傾け、生活環境が改善されるよう取り組むことが、真に持続可能なサプライチェーンを構築することにつながります。そしてその際にはNGOとの連携や同じ課題に取り組む他社との協働など、マルチステークホルダーでの取り組みが必要不可欠です。

(船原志保/アナリスト)

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(Photo by Responsible Sourcing Network via Flickr)

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