Sustainability Frontline
イギリスは「ピートフリー」 ガーデニングも低炭素へ
英語で「泥炭」を意味する「ピート」をご存知でしょうか。ガーデニングがお好きな方でしたら、有機質の園芸用土で土壌改良材として用いられる「ピートモス」をお使いになったことがあるかもしれません。
ところが、ガーデニング大国であるイギリスでは、2024年までに家庭用の園芸用品においてピートを含む商品の販売が停止されるとのこと。ピートの何が問題なのでしょうか。ガーデニングと気候変動の関係をご紹介します。
ピートと気候変動
そもそもピート(泥炭)とは、主に植物が堆積してできた泥状の炭のこと。どこにあるかと言えば、泥炭地と呼ばれる湿地です。
泥炭地には、非常に多くの炭素が貯蔵されています。UNEPによると、世界中の湿地のうち約半分が泥炭地です。泥炭地は、地球の表面のわずか3%を覆うほどの面積しかありませんが、貯蔵する炭素は世界中の森林の2倍に達します。
泥炭は掘り起こされるときに分解が進んで温室効果ガスを放出することから、気候変動への対策として、対応が求められてきました。イギリスの場合、販売されている泥炭の70%は小売店に並ぶ園芸用であり、今回はこの販売を停止する措置です。同時に、泥炭地は豊かな生態系を育む土地ですので、生物多様性保全に向けた動きでもあります。
ピートを使わないガーデニング方法は?
ピートが売られなくなったらガーデニングで困るのでは?と気になるところですが、「ピートフリー(ピートを含まない)」の商品が出回っているとのこと。自然保護団体The Wildlife Trustsは、園芸用品店におけるピートフリー商品の販売状況を調査し、一覧を掲載しています。
またThe Wildlife Trustsは代替品の利用も提案。樹皮のチップやココナツ繊維、木繊維が使用できますし、そして家庭の生ごみから作る堆肥も有機質の肥料として有効です。National Trustのウェブサイトにも、泥炭を使わないガーデニングのヒントとして、ポット(※)を使わず種を直接土にまくことや、土壌を豊かにするためのマルチング、自家製堆肥の使用などが挙げられています。
(※育苗用のポットのうち、ピートポットを指していると考えられます。苗の成長後にポットから苗を出すことなくポットごと土に植え付けられて便利ですが、泥炭から作られています)
ガーデニングを低炭素で楽しむ
コロナ禍で人気が高まったガーデニング。せっかくならば「ピートフリー」など「低炭素な」方法も考えてみたいものです。英国王立園芸協会は、低炭素の庭づくりを提案する本を出版しており、ウェブサイトでもエッセンスを紹介しています。「生垣を作る」のような大掛かりな提案も多く、特に都市の住宅事情を思うと難しく感じられる面はありますが、考え方は参考になるかもしれません。例えば以下のようなものがあります。
- 一年草より多年草や木など寿命の長い植物を植えることで、土を掘り返す機会を減らす。生態系を乱したり、地中の炭素が放出されるのを避ける。
- 木を植える。1本の広葉樹はその生涯で2.9トンの炭素を吸収すると考えられる。
- ハシバミ、白樺、柳などの枝を支柱として使う。柳はしならせてトンネル支柱にするが、土に深く挿すと根付くので注意。
BBCも「庭を炭素吸収源に変える方法」として、ピートを避けることや、植える植物の多様性を確保すること、クローバーなど「生きたマルチ」で土壌を覆うことなどを掲載。これらは決して新しいことばかりではなく、自然農法などと重なる部分があるように思えます。私のようなガーデニング初心者は、商品棚に並ぶもの(例えばプラスチック製の支柱やピート入りの培養土)につい手が伸びがちですが、少し踏み込んで考えれば違うやり方がありそうです。工夫しがいも楽しさの一つ。「低炭素な」ガーデニング、いかがですか?
(近藤圭子/ライター)
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