ESGを従業員の評価・賞与に反映 実質的な変化を生む仕組みとは?

2022 / 11 / 30 | 執筆者:岩村 千明 Chiaki Iwamura
書類とペンを持って話し合っている人の手元

(Photo by aymane jdidi via Pixabay)

サステナビリティ課題への取り組みを促進するため、役員報酬とESG指標を連動させる企業がグローバル規模で急増しています。WTW(ウイリス・タワーズワトソン)が今年実施した調査によると、欧州主要インデックス構成企業327社のうちESG指標を役員報酬に反映させている企業は約8割。日本でも、TOPIX100構成企業の6割以上が同制度を導入しています。

経営目標にESG要素を含める企業も増えており、サステナビリティが事業業績を左右する重要な課題となってきた表れのように感じます。こうした流れのなかで、昨今では従業員の評価・賞与にもESG指標を組み込む動きが国内外でみられます。これによって、果たして企業は全社的に取り組みを浸透させていくことができるのでしょうか。

「通常業務+α」では、社内浸透は進まない?

サステナビリティへの取り組みは短期的な利益につながりにくいため、社内に定着させる難しさを感じている企業も少なくないはずです。私はかつて、従業員意識調査の結果を基に職場環境やエンゲージメントの改善に向けたアクションプランづくりに携わったことがあります。部門横断的に集まった従業員で課題を共有し、改善案を考える。そこまでは良かったのですが、それぞれが日常業務に追われていたため、結局のところ計画の多くは実行できずじまいだったという苦い思い出です。

とりわけ忙しすぎる職場では、サステナビリティを「通常業務+αの取り組み」と位置付けていては、社内への浸透がなかなか進まないかもしれません。

ESG連動型評価・賞与制度、従業員も対象に

サステナビリティを全社レベルで継続的な活動とするための仕組みづくりとして、従業員の賞与評価にESG指標を導入する企業も出てきています。マスターカードは2022年4月、全従業員のボーナス支給額にESG目標の達成度を反映させると発表しました。同社のESG優先課題であるカーボンニュートラル、金融包摂、男女賃金格差の目標達成度に応じて報酬額を設定していくそうです。

国内でも、花王やソニー、富士フイルムがESG指標と連動した報酬制度の対象を従業員にまで広げると発表しました。花王では、業務目標のうち3割をESG関連とし、従業員自らが目標を設定。目標達成までのプロセスも評価に取り入れるOKR(Objectives and Key Results)制度を採用し、評価結果を報酬額に反映させる仕組みを導入しています。

※すべての人々が、経済活動のチャンスを捉えるため、また経済的に不安定な状況を軽減するために必要とされる金融サービスにアクセスでき、またそれを利用できる状況のこと

実効性のある制度にするには?

パソコンやノートを囲んでミーティングしている人々の手元

(Photo by StartupStockPhotos via Pixabay)

ESG指標と従業員の報酬を連動させるうえで不可欠なのが、全社レベルで目標と評価に一貫性をもたせることです。多くの企業は自社のサステナビリティ重要課題・目標を経営計画などに組み込み、達成状況を示すKPIを設定しています。その全社的なKPIを事業・部門・従業員単位に落とし込み、人事評価に反映させる必要があります。

とはいえ、重要課題のKPIと合致する形で個人単位の目標までを策定するのは、そう簡単ではありません。サステナビリティに関するKPIにおいて、業務ツールや職場環境、事業プロセス、ビジネスモデルなど、どの側面であればチームや個として貢献できるのか。ここを明確にし、最初は花王の事例のように業務目標のうち何割かをESG関連とするのも一つの方法です。

また、当たり前のことではありますが、ESG連動型の評価制度を進めるにあたって重要なのが、教育・啓発活動です。評価制度だけが独り歩きしてしまわないよう、サステナビリティに取り組む意義を従業員一人ひとりが理解したうえで行う必要があります。教育などのインプットと、実務を通じたアウトプット。この両輪で進めることが、活動を持続させるカギになりそうです。

サステナビリティ推進が自走する組織へ

役員だけにとどまらない、全従業員を対象としたESG連動型の評価・賞与制度。その導入は、企業にとって全社的な目標・KPIと事業さらには従業員一人ひとりの業務や目標との関連性を改めて整理する機会となります。結果として、企業は目標達成に向けて、より実行力のある体制を構築できるはずです。また、全社のESG指標と個人の目標との関連性が明確になり、日常業務の一環として取り組めれば、従業員によるサステナビリティ課題の自分ごと化も進むはずです。この新たな仕組みが、実質的な変化を生み、サステナビリティ推進が自走する組織づくりの一翼になることを期待します。

(岩村 千明/ライター)

こちらの関連記事も、ぜひご覧ください:
サステナビリティ社内浸透 カギを握る「キーパーソン」
「思考停止」を招きやすいSDGs  その先の未来を示すコミュニケーションを
地方の中小企業のSDGs 成功のカギは?

 

 

 

 

 

このエントリーをはてなブックマークに追加

Sustainability Frontline もっと学びたい方へ

この記事で取り上げたテーマについてより詳しく知りたいという方は下記よりご連絡ください。より詳しい内容理解 / 勉強会でのライトニングトーク / 社内セミナーでの話題提供など、一緒に学びを深める機会を作っていきたいと思います。

    お名前
    メールアドレス
    企業名、団体名
    詳しく知りたい内容など

    プライバシーポリシーに同意する