Sustainability Frontline サステナビリティをカタチに
サステナブルな漁業・養殖業で「ブルー・トランスフォーメーション」を

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国連食糧農業機関(FAO)は6月に、世界の水産物の生産量・消費量が過去最高に達したと発表しました(出典:世界漁業・養殖業白書2022)。増え続ける人口に対して、いかに海と魚を守りながら、水産物の需要に応えていくのか。FAOから発信されたキーワードは、持続可能な漁業や養殖業を推進する「ブルー・トランスフォーメーション」です。
生産量・消費量ともに過去最高、過剰漁獲は3割越え
世界の水産物の生産量は、過去最高の2億1,400万トン(2020年)に、食用として消費される水産物は、同じく過去最高の1億5,700万トン(2020年)に達しました。消費量は、人口増加のほぼ倍の割合で増え、2020年の一人当たりの水産物の消費量は、1960年代の2倍以上になっています。当然頭に浮かぶのは、魚の数は大丈夫なのか?という疑問です。過剰漁獲されている世界の水産資源の割合は、1970年代は約10%でしたが、2019年には35.4%へと増える一方です。
増え続ける人口と食糧難、求められる「ブルー・トランスフォーメーション」

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世界では、飢餓に苦しむ人が8億人を超え、十分な食料を得られない人は24億人に達しています。水産資源と人びとの命を守るために、水産物を持続可能な方法で生産・管理・取引・消費する構造に変革しようという動きが「ブルー・トランスフォーメーション」です。
ブルー・トランスフォーメーションを実現するカギとして、FAOの報告書に次のポイントが示されています。漁業と養殖業、さらには生産から消費までのバリューチェーン全体で、持続可能なあり方が必要とされているのです。
- 持続可能な養殖業の強化・拡大 ・・・革新的な技術・管理システム、資源やサービスへの公平なアクセス、環境負荷の低減、定期的なモニタリングなど
- 効果的な漁業管理 ・・・資源やサービスへの公平なアクセス、環境・社会・経済面に配慮した漁業管理システムなど
- 社会・経済・環境面に配慮した水産物バリューチェーン ・・・生産性の向上、フードロス削減、透明性、ジェンダー平等・インクルージョンなど
環境面だけじゃない 人権・労働問題が深刻
持続可能な形で漁業・養殖業を行うためには、環境面だけでなく、そこに関わる生産者・労働者がサステナブルな形で生計を立てられることも重要です。
水産業における強制労働・児童労働、劣悪な労働環境などの問題は、長年にわたり数多くの指摘がなされています。2016年にピュリツァー賞を受賞したAP通信による報道では、ミャンマーやタイ、カンボジア、ラオスなどの漁師たちが、強制労働や暴行、低賃金などの劣悪な労働条件下にいることが明らかになりました。最近も、中国漁船で確認された過酷な労働環境について、ヒューマン・ライツ・ウォッチが告発しています。持続可能な漁業の認証機関であるMSC(Marine Stewardship Council)が8月に発表したレポートでは、特に無報告かつ無規制漁業(Illegal, Unreported and Unregulated/IUU漁業)ほど、強制労働が生じやすいと分析しています。
世界第3位の消費大国である日本 私たちがすべきこととは

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日本は、一人当たりの食用魚介類消費量が世界第3位の消費大国です。前述の人権侵害に関わる報道やレポートでは、これらの問題がある水産物が日本でも流通していることが示されています。また、過剰漁獲も、日本の食卓に深く関わる問題です。生産・取引サイドでの管理・モニタリング・法規制だけでなく、水産物を選ぶ立場にある消費者サイドも変わらなければなりません。
私たち消費者は、持続可能な水産物を積極的に選んでいくことで、市場に変化を起こしていくことができます。持続可能な漁業で漁獲された天然水産物を示す「MSC認証」、持続可能な方法で養殖された水産物を示す「ASC認証」「BAP認証」など、サステナブルな水産物が日本でも流通しています。企業での商品開発や社員食堂への導入が進むほか、サステナブルな漁業の実現を目指す料理人のプロジェクト「シェフス・フォー・ザ・ブルー」、サステナブル・シーフードレストランなども広がりを見せています。どのような種類の魚介類がサステナブルかを紹介する「ブルーシーフードガイド」なども、消費する際の参考となります。企業や消費者がこうした水産物を支持していくことが、サステナブルな漁業・養殖業を後押しするエンジンとなっていくのではないでしょうか。
海と魚が危機的な状況にあるとはいえ、良いニュースもあります。FAOの白書によると、2019年に水揚げされた水産物の82.5%は持続可能な漁獲によるもので、2017年に比べて3.8%増加しているそうです。今後、生産から消費までのバリューチェーン全体での変革を目指す「ブルー・トランスフォーメーション」を、さらに前進させていかなければなりません。
(宮原桃子 コンテンツプロジェクトマネージャー/ライター)
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