“外国人技能実習生”とはどんな人? 現状と課題

2022 / 2 / 4 | カテゴリー: | 執筆者:近藤 圭子 Keiko Kondo

溶接をする人の手

今年1月、ベトナム人技能実習生に対する実習先における暴行が報道されました。国内外から課題が指摘されている技能実習制度ですが、技能実習生とはどのような人で、どのような現状があるのでしょうか。

技能実習に来る“外国人”はどんな人?

技能実習制度の目的は何でしょうか? それは、途上国への技術移転による国際貢献です。しかし実際は、人手不足の日本において、技能実習生は労働力として頼りにされていると言えます。

それでは、どのような技能実習が行われているのか、外国人技能実習機構による情報を見てみましょう。

技能実習生一人ひとりに作られる技能実習計画の認定件数は、2020年度、約25万6千件(※)。国籍・地域別では約半数がベトナム、年齢別では約4分の3が10〜20代の若者です。業種別に見ると、建設業や食品製造、機械・金属が多くなっているとわかります。(※企業監理型と団体監理型の合計数)

イメージするならば、例えばソーラーパネルを設置する土木工事の現場や、コンビニに並ぶお惣菜を作る工場で、10〜20代の若者たちが働いている姿でしょうか。

ベトナムの場合、実習生が母国の送り出し機関に支払う金額は、日本円で約100万円ほどの例が多いそうです。現地の最低賃金が都市部を除けば月2万円に満たない金額であることを考えると、どれほどの大金かがわかると思います。それでも、十分な収入と技術を得られるとして来日しているのです。

 

国・地域別技能実習計画認定件数のグラフ

図:国籍・地域別の技能実習計画認定件数
(外国人技能実習機構 令和2年度業務統計より筆者作成。以下同様)

年齢別技能実習計画認定件数のグラフ

図:年齢別の技能実習計画認定件数

職種別技能実習計画認定件数のグラフ

図:職種別の技能実習計画認定件数

日本に来て傷つく技能実習生の若者たち

有効な技能実習が行われる一方で、制度的な課題が大きく、冒頭で触れた暴行のニュースのように来日した技能実習生が傷つく例も報告されています。

昨年末に開催された(公財)かめのり財団様主催「国際交流の新局面 連続セミナー」で、日本で働く外国人の現状を学びました(第2回の抄録はこちら。エコネットワークスで抄録制作を担当しました)。

NPO法人日越ともいき支援会 の吉水 慈豊さんは、在日ベトナム人の支援に奔走しています。特に新型コロナによる影響は大きく、2021年に保護したベトナム人は400名を超えるそうです。単純に月平均でならすと1ヶ月あたり30人以上が助けを求めて駆け込むのですから、数の多さに驚きます。コロナ禍で経営が厳しくなった実習先から仕事を奪われ、同時に実習先から提供されていた住まいも失う例が続いています。本来は実習生を支援するはずの監理団体がありますが、十分に機能せず、支援会にやってくるようです。

ベトナム人のある男性は、駅に”捨てられ”、数ヶ月も転々とした結果、支援会にたどり着きました。別の会社で実習を続ける選択肢もありましたが、「日本人を信じられない」と帰国したそうです。若い人たちが深く傷つき病んでいく様子を思うと、心が痛みます。(参考:「彼は駅に捨てられた」)

4回に渡るセミナーで印象的だったのが「平時からの脆弱性がコロナ禍であらわになった」と繰り返し触れられたことでした。

新型コロナ流行前の状況を調べてみると、法務省が2018年に行なった調査が見つかりました。失踪した技能実習生の実習先に、残業代の未払いや最低賃金違反、賃金からの過大な控除、不当な外出制限、暴行などがあったことが示されています(調査対象となった実習生4,498人分のうち721人)。望ましくない職場環境で働き、必要な支援を受けられず失踪する若者たちがいたことは、のちにあらわになる脆弱さだったのではないでしょうか。

制度の是正や人権デューディリジェンスとともに、技能実習生を支える取り組みも

技能実習は一般的に、自分の暮らしとは遠いものに思われるかもしれません。しかし、技能実習生が働く漁船や畑、縫製工場や弁当工場から、食品や製品が私たちの手元に着くことを思うと、そのつながりに気がつきます。

企業の視点で言えば、実習先企業での不当な行為は「ビジネスと人権」の問題であることは明らかです。新疆ウイグル問題を引き合いに出すまでもなく、サプライチェーンにおける人権問題に世界の目は厳しくなっています。サプライチェーンの先の方までチェックする大変さは理解しつつも、人権デューディリジェンスの一層の強化と情報開示が求められていると言わざるを得ません。

今や地域の中でともに暮らす”隣人”である技能実習生。先のセミナーで示された各地での外国人支援の事例のように暮らしを支えることも、制度そのものの是正や人権デューディリジェンスを通じた確認・改善と同様に、大切なポイントです。地域づくりとして、様々な立場の人が多角的に関わることが期待されています。

(近藤圭子/ライター)

 

こちらの記事もあわせてご覧ください:
「“絶望職場”の担い手たち」をめぐる動き
新彊問題にみる、サプライチェーンの人権侵害への対応
コロナの影響は公平か?

(「ビジネスと人権」と外国人労働者関連情報)
ビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP):「外国人材の受入れ・共生」の項目あり
・「ステークホルダー共通要請事項」 :NAP策定にあたっての作業部会が作成。外国人労働者に関する各ステークホルダーからの意見あり
2021年人身取引報告書:米国国務省によるもの
・「人権を尊重する経営のためのハンドブック」:日本経団連が昨年12月に公開。「外国人労働者」の項目あり

 

Photo by jannonivergall via pixabay

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