生活者の選択基準に「環境」を 広がる企業の取り組み

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近年、世界各地で頻発している異常気象。その一因と考えられているのが、地球温暖化です。英国グラスゴーで開催されたCOP26では、「産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑える努力を追求する」との合意文書が採択されました。そのためには、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出量を2030年までに45%削減、2050年までに実質ゼロとしなければなりません。同会合では、今から2030年までを「決定的な10年」と位置づけ、締約国には取り組みの強化が求められました。

この地球規模の課題を、日本ではどう捉えているのでしょうか?内閣府が公開した世論調査では、気候変動に対する国民の認知度は93.6%と報告されています。一方、米調査機関のピュー・リサーチセンターの調査では、世界主要先進17カ国・地域の中で日本においてのみ同問題に対する生活者の危機感が低下していました。さらに、「気候変動の緩和のために積極的に行動したい」と答えた人の割合は8%と対象国の中で最下位に。

世界で脱炭素社会の形成が待ったなしの課題となるなか、日本でも一人ひとりが意識や行動を変えていく必要があります。昨今では、さまざまな業界で生活者の「環境」に配慮した選択を促す取り組みが進んでいます。

アパレル業界、CO2排出量などを見える化

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世界で二番目の環境汚染産業とされているアパレル業界は、CO2排出量が全業界の約10%を占め、大量の水資源を消費しています。こうした現状を生活者に知ってもらい、「価格」や「品質」だけでなく、「環境」にも配慮した買い物をしてもらおうという動きが各国で出始めています。

サンフランシスコ発のライフスタイルブランド、Allbirdsでは2020年から製品ライフサイクルにおけるCO2排出量を算出し、全製品への表示を始めました。同取り組みを業界に拡げようと、翌年からはFreeTheFootprint.comで測定ツールを公開しています。

また、日本のアパレル大手、アダストリアの子会社が運営する「オー・ゼロ・ユー(O0U)」でも、環境・社会負荷の測定ツール「ヒグ・インデックス(HIGG INDEX)」を導入。製品ラベルにCO2排出量と水使用量を表示しています。

スウェーデンのメンズウェアブランドAsketは、レシートに値段ではなく環境負荷を書き込む「The Impact Receipt」を開始しました。製品の原料生産~輸送まで各工程から排出されるCO2などの内訳を記し、合計に「真のコスト」と記載。公式サイトで、次のように消費者の責任ある行動を呼び掛けています(仮訳)。

あなたは、身にまとう衣服の真のコストを知る必要があります。得体の知れないものを口に入れないのと同じように、服でもそうすべきではありません。その行為は、無責任です。

日常生活で脱炭素行動を促すアプリも

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日常生活における環境負荷を定量的に可視化し、生活者に脱炭素化に向けた行動を呼び掛ける動きは、アパレル業界以外でも見られます。例えば、スコットランド発のブルワリーであるBrewDogが社員の行動変容を促すために取り入れているのが、CO2排出量測定アプリ「Pawprint」です。同アプリでは、各々の生活でのCO2排出量の測定に加えて、削減目標の達成に向けたアドバイスなどを提供しています。

また、マスターカードもクレジットカードの決済データからCO2排出量を可視化するアプリを提供。同アプリの開発にノウハウを提供しているスウェーデンのドコノミーという企業は昨年7月、データビジネスを展開する日本企業DATAFLUCTと業務提携を締結しました。2022年春以降の導入に向けて、日本でも生活者の気候変動対策を後押しする、クレジットカードおよびWebアプリサービスの検討が始まっています。

その他、Googleは昨年10月、米国を皮切りに「Googleマップ」でCO2排出量が最も少ないルートを表示する新機能をリリースしました。無意識のうちに「最速ルート」を選ぶ癖が多くの人に根付いていると考えられるなか、移動においても生活者が「環境負荷を考える」仕組みづくりに取り組んでいます。

企業と生活者、タッグを組んで脱炭素の波を広げよう

生活者の行動変容は、最終的に企業のCO2排出量(サプライチェーン排出量Scope 3)の削減にもつながります。Allbirdsは同社の2025年目標の中で、省エネの推進に向けて「Allbirdsアパレル製品について、お客様の100%が低温洗濯、50%が自然乾燥」を掲げています。企業に求められているバリューチェーン全体でのCO2排出量を削減する上では、下流部分にあたる生活者のこうした行動変容が欠かせません。

企業が働きかければ生活者の意識に変化が生まれ、また生活者の「選ぶ基準」が変われば企業の「モノをつくる/サービスの基準」は変わります。残り10年の正念場をどう乗り切り、気候変動を食い止められるのか。企業と生活者が同じ未来を見据えて行動し、誰もが実感できる脱炭素化に向けた流れを共につくっていくことが求められています。

(岩村千明/ライター)

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