都内「サステナブル・シーフード」レストランのシェフを訪ねて

2021 / 12 / 7 | 執筆者:宮原 桃子 Momoko Miyahara

シンシアブルーの吉原誠人シェフ

原宿駅から徒歩3分のおしゃれなレストランビル「JINGUMAE COMICHI(ジングウマエコミチ)」。さまざまなグルメ店が集まるビルの一角に、「サステナブル・シーフード」をコンセプトにするフレンチレストラン「シンシアブルー(Sincère BLUE)」があります。

「サステナブル・シーフード」とは、海や魚に配慮した持続可能な方法で、漁獲もしくは養殖された水産物を指します。日本は海が豊かで、水産物もたくさん…という時代は遠い昔となり、この35年で日本の漁獲高は約3分の1に減少。世界全体でも、海洋生物の数は1970年から2012年にかけて半減、世界の魚の3割は獲りすぎ(過剰漁獲)、まだ大丈夫と言える魚はわずか6%しかいません。こうした現状を受け、世界ではサステナブル・シーフードの消費が広がり始めています。一方、世界第3位の水産物の消費・輸入大国である日本では、魚の食文化が当たり前すぎるせいか、危機感がまだ低く、一人ひとりの消費行動の変化がなかなか見られません。

日本のサステナブル・シーフードレストランをけん引する「シンシアブルー」の若き料理長・吉原誠人(よしはらまさと)さんに、日本の現状やサステナブル・シーフードの可能性、食のあるべき姿についてお話を伺いました。おいしく美しくサステナブルなフレンチコースも、レポートします。

「魚が獲れなくなっている」現状に危機感 サステナブル・シーフードの発信拠点に

シンシアブルー外観。グルメ店が集まるレストランビルの一角にある

― シンシアブルーは、なぜサステナブル・シーフードをコンセプトにしたのでしょうか。

シンシアブルーのオーナーシェフである石井真介は、ミシュラン一つ星のフレンチレストラン「Sincère(シンシア)」を経営しながら、2017年に東京のトップシェフ約30名とフードジャーナリストとともに、持続可能な漁業の実現を目指す料理人のチーム「シェフス・フォー・ザ・ブルー(Chefs for the Blue)」を立ち上げました。サステナブル・シーフードの勉強会やイベントの開催などの活動を経て、より多くの人にサステナブル・シーフードを知ってもらう場として、2020年9月に石井はシンシアブルーをオープンしました。この店が起点となって、サステナブルシーフードに取り組む店が増えていってほしいという想いがありました。

― 吉原さんは、料理長としてシンシアブルーの立ち上げから関わってこられました。サステナブル・シーフードやシンシアブルーとの出会いは、どのように生まれたのでしょう。

僕は、高校を卒業してから料理の専門学校へ入り、1年間のフランス修行などを経て、大手ホテルのペニンシュラ東京に入りました。そして23歳の時に、全国の郷土料理を知るために、約3か月間の日本一周の旅に出ました。フランス修行時代に各地の郷土料理を学ぶ中で、自分は日本の郷土料理を知らないことを痛感した経験があったからです。さまざまな土地を訪れる中で、その土地の気候や自然などの「風土」が、料理や人、街を作っていると感じました。料理では「風土」を大切にしたいと強く思うようになりました。

日本一周の旅をしていた時の吉原さん

サステナブル・シーフードについては、人生の点と点がつながって今関わっている気がします。僕は鎌倉で生まれ育ち、小さな頃から釣りなど海遊びばかりしていました。すでにその頃から、周りの大人たちが「魚が獲れなくなっている」とよく話していました。フランス修行時代にも、現地の仲間から「日本で魚が獲れなくなっていると聞いた」と尋ねられ、日本一周をした時も各地の漁師さんが口をそろえて「魚が獲れない」と言っていました。そうか、これは小さな地域単位の話ではなく、日本全体の問題なんだと危機感を持ち始めたんです。

旅を終えてから働き始めたシンシア(本店)では、ちょうどオーナーシェフの石井が、サステナブル・シーフードに取り組み始めていました。石井と一緒に勉強会に参加する中で、海の現状や欧米でのサステナブル・シーフードの広がりを考えれば、これから日本でも間違いなく広がるだろうと確信しましたね。自分の人生の中で少しでも貢献したいと考えていた時に、シンシアブルーを任されることになったんです。

持続可能な認証魚、価値がないと捨てられる未利用魚 シェフに試される工夫

シンシアブルーの厨房

― シンシアブルーでは、どんな魚を扱っているのでしょう。

持続可能な漁業で漁獲された「MSC認証」の天然水産物や、持続可能な方法で養殖された水産物を示す「ASC認証」「BAP認証」、持続可能な漁業を目指す「漁業改善プロジェクト(FIP)」などの水産物を仕入れています。これらに加えて、流通に乗らないいわゆる「未利用魚」を使っています。日本の近海には3000から4000種類の魚がいると言われていますが、そのうち日本人が食べる魚は80種類程度だそうです。それ以外の未利用の魚を使うことによって、過剰に漁獲されている水産物を守り、市場で価値がないと判断されて廃棄される魚を減らすことができます。

― サステナブル・シーフードを扱う上で、心がけていることはありますか。

サステナビリティという観点でいえば、外国産より国産を使うことに意味があるので、なるべく国産の認証魚介類や未利用魚を使っていくことを心がけています。

よく使われる知名度の高い魚は、やはり単純に味が美味しいんですね。一方、未利用魚については、おろし方が特殊だったり、身の水分率がとても高かったり、骨が多かったり、それぞれに理由があってあまり利用されていないわけです。僕たちも、毎回名前すら知らない魚がやってくる中で、魚の特徴を見ながら試行錯誤しています。料理人として工夫しながら、未利用魚のおいしさを伝えたいと思っています。

美しくおいしいフレンチビュッフェ しかもサステナブル

シンシアブルーでは、平日夜と週末にサステナブル・シーフードのテーブルブッフェが楽しめます(平日ランチはデザートコースのみ)。十数種類ものサステナブル・シーフードを中心としたオードブルが、小皿スタイルで各テーブルに用意されるほか、メインディッシュとデザートを頂けるコースです。

オードブルビュッフェは、写真の品以外にも次々と運ばれる

テーブルに並べられたオードブルは、エビ(ASC)と柿が絶妙にマッチする一品、未利用魚のウスバハギのカルパッチョ、銀鱈(MSC)とイカ墨のブランダード、燻製銀鮭(ASC)のロースト、バンガシウス(BAP)を岩海苔の入った生地で揚げたベニエ、ビンチョウマグロ(FIP)と発酵赤キャベツ、蟹味噌ソースのバーニャカウダ、クロダイの炙り、牡蠣(ASC)ごはんなど、味も見た目も大満足のラインナップで、しかもすべてサステナブル・シーフードなのです。エビとバンガシウス以外は、すべて国産でした。

銀鱈(MSC)と季節のマイタケや銀杏がマッチ

ウスバハギのカルパッチョ

途中でシェフが、カルパッチョとなったウスバハギを丸ごと見せに来てくださいました。秋が旬のウスバハギは、未利用魚の一つです。魚の特徴や料理法などとともに、未利用魚とは何かを説明してもらうことで、生態系を守りながら食べることへの意識につながります。

ウスバハギ

メインディッシュは、ASC認証の真鯛が入った「たい焼き」。サクサクの生地の中にしっとりとした真鯛、クリーミーなソースのハーモニーが素晴らしかったです。

このコースはオードブルブッフェというスタイルですが、メインディッシュまで終えた後に、もう一度食べたいオードブルがあれば注文できる仕組み。メインを終えた後のお腹の空き具合で、食べるかどうかを決められるので、食品ロスも減らせる良い方法だと感じました。

メニューには、それぞれの魚の認証マークや説明も載せられています

一つひとつの料理が美しく、さまざまな香りや味が複雑に絡み合い、これまでにない美味しさを体験できます。その上、素材はサステナブルとあって、二重の満足感がありました。

「おいしくないと始まらない」その先にサステナビリティへの気づきを

窓から美しい緑が見える店内

― オープンから1年が過ぎましたが、お客さまや社会の反応はいかがですか。

お客さまからは「美味しくて、学びがある」と、とても好評です。僕としては、「地球にやさしい、海や魚を守ろう」だけでは広まらない、まずは美味しくないと始まらないと思っています。料理の魅力を感じていただいて、「しかも」環境にいい、というのが理想的な形です。ディナータイムでは、お客さまに素材の魚を丸ごとお見せしています。例えば「クロシビカマス」といった、名前を聞いてもしらない未利用魚をお見せすると、「そもそも未利用魚って何?」と興味を持ってくださいます。未利用魚やMSC・ASCなどの認証魚など、皆さんに背景を知っていただく工夫をしています。

― 同業のレストランからの反応はいかがでしょう。取り組みは広がっていますか。

今では、オーナーシェフの石井が創設時から関わる「シェフス・フォー・ザ・ブルー」のメンバーも増え、最近は京都に支部もできました。僕は27歳ですが、同世代のシェフの関心も高いですね。同業者の視察もありますし、社員食堂でサステナブル・シーフードを導入したい企業からの相談もあります。サステナブル・シーフードに取り組む店が増えてほしいという想いから、聞かれたことは隠さずにすべて話し、ノウハウを共有しています。

サステナブル・シーフードが広がるには 「知る・選ぶ」「食材や旬を楽しむ」

― サステナブル・シーフードに取り組んでみて、難しさやご苦労もありましたか。

一番大変なのは、サステナブル・シーフードを扱うために必要な「CoC認証」を維持することです。CoC認証とは、MSCやASCのような認証水産物を、適切に管理する流通・加工への認証です。シンシアブルーは、フレンチ店として日本で初めてCoC認証を取得しました。

トレーサビリティを確保するために、発注書・納品書の管理や、その日料理で出した量などすべて情報を管理しなければなりません。非認証の水産物と混ざらないように、認証専用の冷蔵・冷凍庫を設置しています。また、メニューを事前申請しなければならなかったり、定期監査を受けたりと、料理以外の業務が膨大にあるんです。非常に手間がかかるので、個人店などでは特に難しく、サステナブル・シーフードが普及する上での一つのハードルになっているかもしれません。

欧米などではMSCやASC認証の水産物が認知されていますが、日本ではまだ認知度が低く、店側としてCoC認証を取得するメリットが少ないのが実態です。僕たちが前例となることで、CoC認証を取得する店が広まっていくきっかけになったらと思っています。

― これから日本でもっとサステナブル・シーフードが広がるには、何が大切でしょうか。

海の課題やサステナブル・シーフードについて学校教育で教えるなど、まず知る機会を増やすことが一つ。そして、知っているだけでなくて、サステナブル・シーフードを食べる・選ぶという経験をすることが大切です。もっと根本に立ち返れば、本物の食材のおいしさを感じることや、季節に合った旬のものを食べることが、食材やその背景に想いを馳せることにつながると思うんです。

日本は、輸入食品が多く、季節に関係なくさまざまな食品が手に入ってしまいます。また、コンビニやファミレスが多い環境の中で、化学調味料を使ったような、手軽に美味しく食べられるものを求めてしまいがちです。時間がある時でも、家でお出汁を取って飲んでみるなど、自然本来の味を楽しんでもらえるようになったらいいなと思います。

皆さん一人ひとりが、食の中身や背景を知り、選んでいってほしいです。そして、僕は皆さんに、本物のおいしさを届け続けていきたいと思います。シンシアブルーの取り組みをきっかけに、サステナブル・シーフードに取り組む店が、全国に広がってほしいと願っています。

宮原桃子/ライター)

 

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