Sustainability Frontline
男性社会の業界で、女性の働きやすさをどう実現する?
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「男性社会」のイメージが強い鉄鋼業界。近年では、女性社員の積極的な採用や職場環境の整備を進めるなど状況は変わりつつあります。しかしながら、日本5大鉄鋼メーカーの女性社員比率はいまだ10%前後、業界全体の女性管理職比率は2.1%にとどまっています。筆者が務めていた外資系鉄鋼メーカーの女性社員比率も10%程度。数字だけみると圧倒的な男性社会でしたが、女性が働きにくい職場だったかというと、私の印象ではそうではありませんでした。
数値が低いからといって、一概に「男女格差が解消されていない、多様性の受容が進んでいない職場」とは言えないのかもしれません。前職での経験から、男性ばかりの職場でも女性が働きやすい環境づくりのためのヒントを探っていきます。
労働に「男性」「女性」という線引きはない
私が働いていた外資系鉄鋼メーカーでは、女性が少数派であっても「肩身が狭く自分の意見に耳を傾けてもらえない」と感じるようなことはありませんでした。「女性だから無理」と決めつけられる、過剰な配慮によって可能性を狭められるようなこともない。労働に対して「男性」「女性」という線引きがなく、ごく自然に性別によらず能力を発揮する公平な機会があったように思います。
産後もキャリアを続けられる働きやすい職場として大半の社員が育休後に復帰し、復帰直後に管理職に昇進した女性も。2020年度の部長相当職以上の管理職に占める女性の割合は、13%となっています。
改めて考えてみると、時短勤務やフレックスタイム、テレワークなどの制度が充実していたのはもちろんのこと、社員のエンゲージメントやエンパワーメントの向上につながる同社の特徴的な人材育成システムが女性の活躍を推進する一翼だったのではないかと思います。
人材育成のカギとなるエンゲージメント、エンパワーメントとは?
エンゲージメントとは、社員一人ひとりが企業の掲げる戦略や目標に向けて自発的に自分の力を発揮する貢献意欲のこと。会社と社員、社員同士に信頼関係があり、絆を感じている状態を指します。
一方、エンパワーメントとは、組織を構成する一人ひとりが力をつけ、自らの意思決定により自発的に行動を起こしていこうとすること。この概念では、社員の潜在的な能力を尊重し、その力を最大限に引き出すことが焦点となります。
人材育成に力を入れていたこの会社では、社員のエンゲージメントやエンパワーメントに着目したさまざまな制度が十数年前から確立されていました。
貢献意欲や主体性を高める人事制度
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例えば人事考課制度では、年度初めに個人が会社の戦略に連動した業務目標を設定し、四半期に一度のサイクルで上司と面談を実施。組織または部門と個人とで目標にズレがないかを確認・調整するなど、個人の目標達成が会社の功績につながりやすい仕組みでした。
業績評価プロセスには『360度フィードバック』が導入されており、上司以外にも同僚や他部門の担当者、顧客など複数・多方向から評価を受けられる。一方で、部下が上司を評価する『アップワードフィードバック』などもありました。こうしたプロセスを通じて、社員は組織の目標達成や成長に自分がどう貢献しているのか多面的な視点から捉え、当事者意識や責任感を育てられます。また、管理職である上司に“気づき”の機会を与え、成長を促す一端を担うことができます。
日々の業務と将来像を結びつける『キャリア開発プラン・目標』の策定においても、主体性が求められました。上司と相談しながらキャリア開発プランを立てたうえで、数あるトレーニングプログラムから必要なコースを社員自身で選択。空きのあるポジションに対して部署間を越えて自主的に応募できる社内公募制度などもありました。
働きやすい職場づくりに求められる「個」を尊重した帰属意識の醸成
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自らの意思決定により自らの成長を促し、会社の発展に貢献する。この方針こそが、男性が多い職場でも女性社員が組織の一員として自律的にのびのびと活躍し、その能力を発揮できる理由の一つだったのではないかと思います。
長期的な視点でキャリアを描き、自発的に行動を起こせる環境、個人の意見やパフォーマンスが組織のあり方や方向性に反映される制度、そうした制度を受け入れて活用する企業風土。これらは社員のエンゲージメントやエンパワーメントを高め、ひいては「会社に貢献している、自分の居場所を感じられる」という帰属意識の向上につながります。
多様性という面では特定の業界において女性の割合が低すぎるのは問題であり、一定レベルまで引き上げることは各社が取り組むべき課題です。が、一方で数値だけにとらわれず、社員のエンゲージメントやエンパワーメントなどを通じて、女性にとっても男性にとっても「働きやすい/働き続けたい」と思える職場をつくっていくことも大切なのではないでしょうか。
(岩村千明/ライター)