Sustainability Frontline
女性自身に潜む「アンコンシャス・バイアス」 ジェンダーギャップ解消のカギに
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日本でも年々増加傾向にある「共働き世帯」。労働政策研究・研修機構の調査によると、1997年以降は専業主婦世帯を上回るようになり、現在では2倍以上に。保育園の送り迎えには、父母や祖父母などさまざまな人が行きかうのが当たり前になりました。一方で、時として「子どもを預けて働くこと」に罪悪感を抱くことがある女性も多いのではないでしょうか。
私もその一人でした。以前、生後半年になる息子の前で仕事をしていたときに、祖母から「○○くんだけのママでいてあげて」と言われ、「母親は子ども以外に目を向けてはいけないの?」と憤りを覚えました。しかし、実際に子どもを保育園に預け始めた直後は「申し訳ない」という罪悪感に駆られ、自分の心底にも「家事や育児は女性がやるもの」というアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が潜んでいたことに気づきました。
アンコンシャス・バイアスとは、普段の生活や文化による影響で無意識下に培われた「思い込み」や「偏見」を指します。例えば「男性が外で働き、女性は家を守るもの」という思い込みは、「家庭内性別役割バイアス」と呼ばれます。
ほかにも、ジェンダー/人種/年齢などの属性を無意識に能力に結び付ける「パフォーマンスバイアス」なども存在し、いずれも社会や企業において機会の均等の担保を妨げ、個人の成長の可能性を阻害する恐れがあると言われています。
その言動の背後に、アンコンシャス・バイアスは潜んでいませんか?
例えば、産休・育休後に復職した女性が「単調な業務ばかり依頼される」という話を聞いたことはありませんか。
これは「子どもがいる女性には負荷の高い業務を任せるべきではない」という思い込みによって生まれる問題。その背後には、女性が家事・育児を担っているはずという「家庭内性別役割バイアス」が存在します。また、「女性は管理職に向いていない」という偏見をもつ男性がいる一方で、女性自身が「自分にリーダーは無理」という思い込みを理由に昇進を断るケースも多いそう。
まずは、こうしたアンコンシャス・バイアスを認識・自覚することが、その克服に向けた第一歩となります。
企業のアンコンシャス・バイアス解消への取り組み、女性の意識改革も焦点
昨今では、日本でも組織や個人に偏った視点・見方がないかを見直し、行動変容を生み出すことを目的に「アンコンシャス・バイアス研修」を導入する企業が増えています。
メルカリでは2019年より自社で開発した独自研修プログラム「無意識バイアスワークショップ」を実施。昨年には全マネジャー受講必須の研修に定めるとともに、ノウハウを共有し日本社会全体の多様性の受容を推進すべく、研修資料を公開しています。
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ここ数年では、女性社員の育成に向けて、「女性自身の意識」に着目した活動も多くみられます。
ファーストリテイリングでは、経営層向けの研修に加えて、女性社員を対象に「自分自身への偏見を自覚し、自己を正しく評価することで自信を創出する」をテーマとした研修を実施。
東京海上ホールディングスでは、性別による役割分担につながる固定観念をなくすため、育てる管理職側(主に男性が多い)と将来のリーダー候補となる女性側の双方を対象にした研修を実施しています。2019年には、国内グループ各社女性社員を対象に多様な価値観や考え方に触れることで、自らのキャリアについて考え、気づきを得る場を提供することを目的とした、キャリアカレッジ「Tokio Marine Group Women’s Career College(TWCC)」を開講。同社の女性管理職比率は現在10%未満ですが、準リーダー層の半数以上は女性。2030年には同比率を30%以上まで引き上げる見込みだとしています。
世界経済フォーラムは今年3月、「The Global Gender Gap Report 2021」を公表し、各国における男女格差を測るジェンダーギャップ指数を発表。日本の「経済分野」での順位は156ヵ国中117位。女性の管理職割合の低さ(14.7%)などが目立ちました(参考:内閣府男女共同参画局ウェブサイト)。
女性登用を妨げている一因として指摘されるアンコンシャス・バイアス。男性側の意識改革だけでなく、女性自身にその存在を認識させることも、組織でのジェンダーギャップ解消や多様性の受容に向けて重要なのではないでしょうか。
(岩村千明/ライター)