Sustainability Frontline サステナビリティをカタチに
コロナ禍でサプライチェーン労働者にしわ寄せ 求められる「誠実さ」
Photo by UN Women/Fahad Abdullah Kaizer via Flickr
新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の影響で、経済的に厳しい状況下にある人びとがさらに追い詰められている現状が、日本の報道でもよく取り上げられています。同じことが、今世界のサプライチェーン構造の中でも起きています。
アパレル産業で明らかになった賃金カットや未払い
アパレル産業の労働環境改善に取り組むNGO「クリーン・クローズ・キャンペーン(Clean Clothes Campaign)」が6月に公表したレポートによると、ナイキやH&M、プライマークについて、インドネシア、バングラデシュ、カンボジアのサプライチェーンで賃金の未払いやカット、サービス残業などが明らかにされています。
コロナ禍以降のアパレル産業では、約400億ドルに相当する商品への未払いが生じているとされています。こうした状況下で、同調査でインタビューした労働者の約7割は、給料が満額払われなかった時期があり、約6割は給料が下がったと回答しています。多くの労働者が解雇された中で、残っている労働者には、より高い生産目標や長時間労働が課されている実態も確認されています。
しわ寄せはさらに子どもへ、世界の児童労働は20年ぶりに増加
Photo by Zoriah via Flickr
サプライチェーン上流の、いわゆる末端の労働者へのしわ寄せは、さらにその子どもたちにも大きな影響を及ぼしています。コロナ禍による親の仕事や収入の減少、学校の休校などの悪条件が重なり、2020年は児童労働※に従事する5~17歳の子どもの数が、20年ぶりに増加して推定1億6000万人となりました(出所:ILO/ユニセフ)。深刻なのは、とりわけ5~11歳の幼い児童労働者が急増し、全体の半分強を占めるようになっていることです。
※義務教育を妨げる労働や、法律で禁止されている18歳未満の危険・有害な労働のこと
最低賃金ではなく「生活賃金」の保証へ 企業の動きが始まる
Photo by Michael Fleshman via Flickr
こうした状況を受け、法的義務である「最低賃金(minimum wage)」に留まらず、人間らしい適切な生活水準を維持するために必要な「生活賃金(living wage)」を保証する動きが少しずつ進んでいます。これは、各国における法定最低賃金が、人びとが最低限の生活を送るのに不十分なケースが多くあるためです。
持続可能な貿易を推進するオランダのサステナブル・トレード・イニシアティブ(IDH)とロレアルやユニリーバなど欧州のグローバル企業10社が、サプライチェーン全体で労働者の生活賃金を保障するための行動計画「Call to Action: Better Business Through Better Wage(より良い賃金で、より良いビジネスへ)」をスタートさせ、他社の参加を呼びかけています。
この他にも、サステナビリティ先進企業のパタゴニアも支持する非営利組織「Global Living Wage Coalition(グローバル生活賃金連合)」では、生活賃金を推計するアンカーメソドロジーという手法を使い、20カ国以上で生活賃金ベンチマークを完了するなど、取り組みを進めています。パタゴニアはこうした手法を活用しながら、衣料品製造工場の労働者の39%に対して、生活賃金を提供できるようになっています(2020年時点)。
サプライチェーンの隅々まで人権尊重を 企業に求められる「誠実さ」
今グローバルでは、サプライチェーン全体で人権尊重を推し進める動きが、急速に広がっています。強制労働などを防ぐことを目的に、英国やオーストラリアの現代奴隷法、フランスの注意義務法、米国の貿易円滑化・貿易執行法、オランダの児童労働注意義務法などが、2015年以降次々と成立しているほか、ドイツでも6月にサプライチェーン法が成立。EUでは、人権・環境デューデリジェンス法の検討が本格化するなど、世界全体で法規制の強化が進んでいます。日本でも、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づく行動計画が2020年に策定され、動きが活発化しています。こうした法制化の動きを踏まえると、人権リスク=経営リスクとも言える時代になっています。
ただ、人権尊重は、リスク管理という観点以上に、企業活動すべてにおける基盤と捉えられるべきものです。ESGやSDGsなどへの取り組みが急速に進む今だからこそ、企業にはより一層、表層的・形式的なものではない「誠実さ/インテグリティ(Integrity)」が求められています。コロナ禍を経て、サプライチェーンの隅々まで人権尊重にどう取り組んでいるか。そこに企業としての覚悟や姿勢が見えてくるように思います。
(宮原桃子 コンテンツプロジェクトマネージャー/ライター)