Sustainability Frontline
難民も企業もハッピーになる雇用関係とは?
先日、『ミッドナイトトラベラー』という映画を見ました。政治的な理由でアフガニスタンを追われた家族が、長い旅の末に西ヨーロッパに移住するまでの日々を、自分たち自身で撮影したドキュメンタリーです。
映画を通じて「自国を逃れてどこかに定住した後も『難民』と呼ばれる彼らの日常は続いていく」と改めて気づきました。同時に、難民支援では一時的な寝食の提供だけでなく、定住後の生活基盤づくりの支援、特に雇用の確保が重要だと痛感しました。
雇用の確保において、企業は重要な役割を果たすことができます。世界各地と日本における取り組み事例をお伝えします。
専門性を発掘&育成~世界各地の事例から~
まずは世界各地の事例を見てみましょう。多くの国では、受け入れ当初の語学や職業訓練、就業相談を政府が担っています。デンマーク政府は、学歴や資格に基づく能力のマッピングを、受け入れ段階から開始。各地の労働市場の需要に応じて、適した地域への移住を勧めています。トルコでは、政府がUNHCRの協力のもと、出身国で修了した研修や教育を認定できる仕組みを作り、難民の方々が専門性に即した仕事に就けるようサポートしています。
企業も取り組みを進めています。家具量販店のイケアの親会社Ingkaグループでは、難民向けの「雇用のためのスキル」プログラムを20カ国で595人に実施(2021年6月現在)。参加者の3分の2が、プログラム終了後にイケアや他企業で職を得ました。 今年9月には、アマゾン、Facebookなど米国内の33の様々な分野の大企業が、アフガン難民の雇用機会の創出を表明しています 。
難民の人々の特性を強みにしながら、事業を展開しているレストランやメディアもあります。スペインやドイツでは、ニュースや生活情報を発信する、難民による難民のためのウェブサイトが創設されました 。米国のメンフィスでは多様なルーツの移民や難民が、それぞれの文化の料理を提供している「Global Café」というフードホールが人気です。こうした動きは、社会の多様性への理解を促進し、難民のコミュニティを支える存在になっています。
日本でも始まっている、企業・NPOによる就業支援
日本には、下記のような、国の受け入れ体制に関する課題があります。
・海外に比べ圧倒的に受け入れ難民数が少ないこと
・出入国在留管理局(入管)の人権意識に欠ける対応が社会問題になっていること
一方で、企業やNPOに目を向けると前向きな取り組みもあります。
1つ目は、自然エネルギーを100%使いながら、廃棄されたパソコンをアップサイクルしたパソコン「ZERO PC」を販売しているピープルポート株式会社。職業訓練によって難民の方々にパソコン再生の技術を身につけてもらい、製造スタッフとして雇用しています。2つ目は、NPOのウェルジー。ウェルジーは、2017年から難民の方々の育成から企業の採用、就業先での定着まで伴走する事業「JobCopass」を開始。2021年6月までに12企業に難民の方の就職が決定した、とのことです。
企業がスキルを活かしたやりがいのある雇用機会を提供することは、難民の方々の人権が確保される上で重要なだけでなく、多様な人材を受け入れることで事業の成長やD&I推進にもつながります。
難民の方々も企業も、そのまわりのコミュニティもハッピーになれる雇用支援がこれまで以上に広がっていくことを、心から願っています。
参考:
『難民と働く-雇用主との連携 雇用主、難民、政府、市民社会へ向けた10のアクションプラン 』 UNHCR・OECD刊(2018年)
(曽我 美穂/ライター)
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