Sustainability Frontline サステナビリティをカタチに
ネスレに学ぶ ジレンマの伝え方
企業がサステナビリティを推進する上で、常に直面するのがジレンマです。脱炭素や脱プラスチック、生物多様性の保全、人権尊重といった環境・社会課題に取り組む際には、仮に有効な代替手段や解決策があったとしても必ず、質や量の確保、対応の優先順位、他の課題への副次的な影響、経済性との両立といった問題が立ちはだかってきます。
そうしたジレンマを、内に抱え込んで隠すのではなく、伝えることでいかにステークホルダーの共感につなげていくか―それを考える上でヒントになるのが、ネスレが立ち上げたパーム油をテーマにした特設サイト「Beneath the surface」(水面下)です。
パーム油を巡る課題への取り組みが抱えるジレンマ
ネスレは2020年までに森林破壊ゼロのサプライチェーンを実現する目標を2010年に発表しました。しかし最終年でも進捗は70%にとどまってしまい、未達に終わりました。今年4月に発表された新たな目標では、小規模農家とのエンゲージメントを強化し、2022年までに森林破壊ゼロを実現し、かつサプライチェーンにおける人権侵害の撲滅に取り組むことを宣言しました。その新しい目標発表後にリリースされたのが上記の特設サイトです。タイトルの通り、パーム油を巡る問題の複雑性とネスレの取り組みの裏側をステークホルダーに理解してもらうことを目指しています。
サイトを訪れると、森林破壊・強制労働・原料としてのパーム油の3つのテーマについての映像が順に流れ、見る側は対策の進め方についてYes/Noを選択しながら進んでいくことで、ネスレのジレンマを追体験していくことができます。
たとえば森林破壊。最初の映像では、我々の生活がパーム油に大きく依存していること、ネスレは2020年までに森林破壊ゼロの目標を掲げ直接サプライヤーとの問題の改善に取り組んできたこと、しかし目標は達成できず、小規模農家の問題が壁となっていることが紹介されます。そして、「森林破壊につながる小規模農家との契約を打ち切るべきか」という問いが投げかけられ、「Yes(契約を打ち切る)」または「No(特別対応をする)」のどちらかの選択を迫られます。
最終的にはどちらを選択しても、強制的に契約を打ち切るだけでは根本的な問題解決には至らないこと、小規模農家の啓発と能力強化が重要でありネスレはそこに取り組んでいくことを伝える映像が流れます。同様の構成で、強制労働は特に移民労働者の問題が、原料としてのパーム油は代替品への移行の難しさが取り上げられています。
エンゲージメントと透明性がカギ
一貫したメッセージの核になっているのが、ステークホルダーとのエンゲージメントと透明性の確保の重要性です。
サステナビリティの推進に、単純な解決策はありません。だからこそ企業は、ステークホルダーとしっかりと対話をしながら、課題解決に向けたマネジメントのサイクルを回していくことが求められます。
そしてコミュニケーションにおいては、できたことを伝えることは当然のこと、できていないことも理由とあわせて伝えていくことが重要です。また情報を受け取る側も、単純に〇×ではなく、その過程や姿勢も含めて評価していくことで、結果的に課題の解決に早く到達していくはずです。
photo by Pixabay
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