先住民族の土地問題-人権観点からのフィージビリティスタディの必要性

2021 / 8 / 19 | 執筆者:EcoNetworks Editor

発展途上国のほとんどは植民地から独立した国であり、支配民族と被支配民族が共生しています。

こうした国々では、外国資本や支配民族と、被支配民族との間に摩擦が起きやすいことに注意が必要です。特にそれが顕著に現れるのが、広大な土地利用を行う資源関係で、被支配民族であった先住民族との間で、紛争や社会問題につながることがあります。

2000年代に南米のチリで先住民族との間に発生した問題に、日本企業の立場で関与した経験を紹介します。

チリでの土地と先住民族に関する問題

チリの南部ではスペイン人による植民地支配が及ばず、マプーチェ族という民族が農業や牧畜を営んで暮らしていました。しかし19世紀にスペインから独立したチリ政府によるヨーロッパ系移民の入植奨励政策で土地の接収が進み、20世紀前半にはマプーチェ族の所有権が認められた土地はわずか5%に減ってしまいました。1970年に就任した社会主義のアジェンデ大統領は農地改革を行い、接収した農地の小規模農民への返還が始まりましたが、1973年の軍事クーデターで就任したピノチェト大統領の政権では、軍事政権の援助を受けた財閥による大規模植林が始まり、先住民族の土地がどんどん産業林に変わっていきました。

その後、90年代初頭には同地域に日本企業も何社か参入し、土地を購入して植林事業を始めました。ちょうど先住民族の土地回復運動が過激になった頃で、企業のトラックが襲撃されたり燃やされたりするといった事件が珍しくない状況でした。

土地問題がつきまとう植林事業で国際的な森林認証を得る為には、地元住民や先住民族にどのように対応しているかが重視されます。私がいた企業では、従業員や請負業者に先住民族の歴史や文化を知って理解してもらうためのセミナーを、先住民族の人に講師になってもらって開催したり、自ら先住民族の祭祀に立ち会ったり、聖地として所有権の回復を要求している土地を先住民代表と訪問したりして、まずは土地への思いの背景を理解しようと努めました。

先住民族の聖地を訪ねて

会社が購入していた土地の真ん中に、先住民族の聖地という場所があり、そこを返還して欲しいという要求がきたことがあります。仮にその土地だけを返還しても、そこまでのアクセスを確保する必要が出てくるため周りを植林地で囲んでしまうわけにもいかず、要求された面積自体は広くはなかったものの、会社にとっては頭の痛い問題でした。そこでまず、なぜそこが聖地なのかを理解するために、先住民族の人と一緒にその場所に行って、驚きました。

チリは、アンデス山脈が海から遠くない場所に連なる細長い国です。聖地とされる場所は、標高200mくらいの丘で、頂上が平らな平地になっているのですが、そこからは視界が360度ひらけ、間近に太平洋が広がり、後ろには雪を抱いたアンデス山脈がそそり立ち、左右は延々と続く森林が見え、まさに宇宙からのエネルギーが届きそうな場所です。何百年も前から伝統的な祭祀をしていたことは、十分理解できる場所でした。

人権観点でのフィージビリティスタディの重要性

社内で検討した結果、最終的にはその土地全体が先住民族の下に所有権が返還されるよう、土地の返還を担う政府機関に購入した値段より安い値段で買い取ってもらい、損失計上をしました。

大規模プロジェクトを始める際、企業は通常フィージビリティスタディ(FS)を実施し、事業の実現可能性を検証します。そもそもプロジェクトは実現可能なのか、また投資に対してどれだけのリターンが見込めるかを、計算していくわけです。しかし将来の採算性だけでなく、事業を実施する場所や土地が、そこに住んでいる住民にとってどんな意味があるのかを過去の歴史を遡って検証し、その場所での事業展開そのものを止める決断をすることも選択肢とする、人権・CSR観点でのFSも重要であることを実感した経験でした。

これは今ビジネスと人権の文脈で企業に求められている、人権デューディリジェンスそのものともいえます。土地に関わる先住民族との間では、自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(free, prior and informed consent:FPIC)に関する権利を尊重し、FPICの実施を意思決定プロセスに組み込むことが重要です。また政府が直接・間接的に問題の当事者となるようなケースもあるため、政府とも十分に対話を行う必要があります。

最後に、マプーチェ民族を知るためのセミナーの中で、民族出身の講師がカトリック教徒であるヨーロッパ系のチリ人に伝えていた言葉を紹介します。

「貴方たちが日曜やクリスマスに行く教会が取壊されて、そこにマクドナルドの大きな看板が立てられたら、どんな気持ちになりますか?」

(リサーチャー 佐藤)

*画像はいずれもPixabayから

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