真っ暗闇の体験「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」 D&I社会へのヒントとは

2021 / 8 / 19 | 執筆者:宮原 桃子 Momoko Miyahara

完全な真っ暗闇の空間。参加者は、「暗闇のエキスパート」ともいえる視覚障がいのあるガイドとともに、白杖とお互いの声だけを頼りに旅に出ます。これは、ダイバーシティを体感するダイアログ・ミュージアム「対話の森」(東京・竹芝)で開催されている「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(DIALOGUE IN THE DARK)」というプログラムです。

「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(以下、DID)」は、1988年にドイツで生まれ、世界50カ国以上で900万人以上が参加、日本では1999年からスタートしました。本プログラムには、誰もが生きやすい社会に向けて、私たちは何ができるのか、そのヒントがたくさんつまっています。プログラムを体験したレポートとともに、そこから見える社会への示唆をお伝えします。

暗闇の100分間、さまざまな仕掛けで新たな体験

竹芝にある「対話の森」エントランス

私自身は、6年前にDIDに初参加して大きな衝撃と学びがあったので、いつか我が子が暗闇を怖がらず、社会的なことを理解できる年齢になったら、是非体験させようと思い、今回は中学生と小学生の子どもたちと参加しました。参加者は、私たちの他に、福祉の仕事を志す高校3年生の計4名。今回のガイドさんは、光のある方向はうっすらわかるものの、それ以外は見えない視覚障がいのある女性で、ユーモアを交えながら明るいトークで、参加者を和ませてくれます。

白杖を持った5人は、完全な暗闇の中、東北のおじいちゃんを訪ねる電車旅に出発。さまざまな場所を通りながら、なんとか駅までたどりつくものの、ホームを歩き電車の席に座るまで、私たち参加者はおっかなびっくり。声を掛け合い、時に助け合い、おしゃべりをしながら、おじいちゃんの家へ到着しました。さまざまな仕掛けで100分間があっという間に過ぎ、最後に光のある出口を抜けた時は、参加者同士で感想が止まりませんでした。DIDの一つの面白さは、プログラムの最中や終了後にも、ガイドと参加者が感じたことなどを話す「対話」の時間があることです。

どんなに環境が整っても、「声かけと助け合い」こそが安心感に

参加者誰もが口にしたのは、初めて行く場所で段差や方向が全くわからぬことへの恐怖、そして不安。「百聞は一見に如かず」とはまさにこのことで、本で読んだり誰かに聞いたりしても想像しきれない感覚でした。白杖があったとしても、そこに何があるのか、その先がどうなっているかわからない中では、やはり誰かに頼りたくなるものです。実際にプログラムの中で、誰かが「こっちですよ」「この先はこうなっています」などと言ってくれるだけで大きな安心を感じました。ガイドさんは、こう話してくれました。

「初めての場所は本当に不安ですが、行かないわけにいかないので、白杖や点字ブロックを頼りにするしかありません。しかし、路上の点字ブロックには、自転車など障害物が置かれていたりすることもあります。やはり、誰かが声をかけてくれると安心します。最近は、“リレーのように” 声をかけてくれる人が現れることも多く、嬉しくなります」

折しも先日、エコネットワークスでは、車椅子インフルエンサーの中嶋涼子さんなどを招いて第2回D&I勉強会を開催しましたが、中嶋さんも「“手伝いましょうか?”と声をかけてくれると、その日一日ハッピーな気持ちでいられるくらい嬉しい」とお話されていたことを思い出しました。

視覚障がいのある方が、駅のホームから転落して亡くなられる事故がここ数年でも何回もあり、各所でホームドアの設置などが進んでいます。しかし、いくらハードが整ったとしても、すべての場所で整っているかどうかもわからない中で、見知らぬ場所での恐怖・不安は変わらないでしょう。ハードが整えば整うほど、周囲の人びとの中で「誰かがやってくれるだろう」「ホームドアがあるから大丈夫だろう」など他人事感が進んでしまわないかという危惧も感じます。声をかけるのを躊躇したり恥ずかしがったりする前に、とにかく、お互いにスッと声掛けし、助け合う。改めて、その大切さを痛感しました。

暗闇の中でフラットな関係に 障がいのある人は「自分とは違う特別な人」ではない

プログラム終了後も、ラウンジでガイドや参加者同士によるシェアが行われます

DIDの暗闇の中では、お互いの姿かたちが見えない分、容姿や性別、年齢、属性、所属などのさまざまなことが気にならなくなり、不思議とフラットな感覚で話をしている自分に気がつきます。これまで視覚障がいのある方と身近で接したことがなかった我が子たちも、ガイドさんと夏休みや学校・部活のことなど、あれやこれやとワイワイおしゃべりをしていました。そこには、障がいがあるかどうかは関係がなく、ただ一人ひとりの人同士のコミュニケーションが生まれているのです。

例えば、障がいがある人、言葉が通じない外国の人など、自分とは違うと思っている誰かが目の前に現れると、どうしても人は怖がって、コミュニケーションを避けがちです。しかし、ともに時間を過ごしたり、体験したりする中で、フラットにお互いを知ることができると、「自分とは違う特別な人」ではなくなることをDIDでは感じます。

また、暗闇の中で皆が同じ立場になったことで、視覚障がいのある人が「手伝ってあげるべき人」から「頼れる人」に変わり、中学生の息子は「ガイドの〇〇さんって、マジスゲー! 」と尊敬の目でガイドさんを見つめていました。あらゆる関係性が一度フラットになることで、多くの発見がありました。

私たち一人ひとりは、それぞれにさまざまな特性を持っています。目が見えないということは、そのうちの一つでしかありません。それぞれの特性によって、お互いに困りごとや大変さがあるのは当たり前。特別な誰かを助けるのではなく、お互いに困りごとがあれば助け合う、それが自然にできていく社会になれば、これまで「障がい」とされていたものは「障がい」ではなくなるのではないでしょうか。

ともに時間を過ごしコミュニケーションする大切さ、企業研修にもおススメ

参加者によるコメントや写真がツリー上に飾られています

DIDでは、暗闇の中での体験そのものだけでなく、「対話」することを大切にしています。100分間の中で同じ時間を過ごし、たくさんの会話やコミュニケーションがありました。多様性を尊重する、D&I社会を実現するための第一歩は、まずは「お互いを知る」ことなのかもしれません。

前述のD&I勉強会では、車椅子インフルエンサーの中嶋さんとLGBT-JAPAN代表理事でトランスジェンダーの田附亮さんからも、「多様性を尊重する社会を実現していく上で、異なる特性の人たちが、一緒に時間を過ごすこと、体験することが大切」というお話がありました。

DIDは、個人向けだけでなく、企業向けのダイバーシティ研修プログラムにも力を入れています。多くの企業がD&Iを掲げ、社内の環境や制度などを整え、セミナーなどの研修を行っていますが、DIDのように当事者とのコミュニケーションや実体験を伴う研修は、大きなインパクトを生むことが期待できます。また、海外ではDID体験者の約60%が子どもである一方、日本ではたったの3%とのこと。今回参加した我が子たちは、相当な衝撃と刺激を受け、その後何日もDIDで感じたことなどを話していました。学校などの教育機関でも、今後学びの場として活用が広がることを期待したいです。

「対話の森」では、DIDだけでなく、聴覚障がいのあるガイドさんとともに音のない世界を体験する「ダイアログ・イン・サイレンス」や、高齢の方がガイドとなり、生き方について対話する「ダイアログ・ウィズ・タイム」も開催しています。この記事を読んでくださった皆さんも、まずは是非体験してみてください。きっと一生忘れられない体験になるのではないでしょうか。

★エコネットワークスでは、毎年社会課題解決に貢献するNPOへの寄付を行っており、DIDを主宰する「一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサイエティ」の理念・活動に賛同し、2019年に寄付を行いました。

宮原桃子/ライター)

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