一方通行にならないCSRの重要性

2021 / 8 / 4 | カテゴリー: | 執筆者:EcoNetworks Editor

今やCSRという言葉は、企業にとっては不可欠のものとして普及しました。背景にはいくつかの要因がありますが、経済のグローバル化や、特に製造業の海外進出が一例として挙げられます。そこで、南米のエクアドルとチリで、日本企業の合弁事業によるユーカリの植林プロジェクトに携わった経験から、CSR活動の恩恵を受ける地元住民側と企業側との視点のギャップについて、紹介してみたいと思います。

石油会社の事例

エクアドルでは、アンデス山脈の東側に広がるアマゾン河上流の熱帯雨林に埋蔵される原油を、主に外国資本の石油メジャーが採掘して、外貨を得ています。その石油企業が地元住民に対して行うコミュニティ事業の典型的な例が、学校や病院の建設です。立派な箱物を建設して、そして写真を撮って企業活動をアピールするわけですが、中味となる教師や医者の継続的な手配はケアされず、結局はさびれてしまう、というのが典型的なパターンでした。

これに対してよく言われるのが、「魚を与えるのではなく、釣竿を与えよ(釣り方を教えよ)」という言葉です。すなわち、自分たちで自立して地域を発展させていけるような技術や知識を教えてあげなさい、ということです。そうした指摘を受けて、先進国の進出企業が、自分たちの国で役立っている知識や技術を現地に赴いて教えようとするのですが、残念ながら成功例はあまり多くないようです。

植林会社でのCSR

エクアドルで私が携わった事業は、熱帯気候の海岸地方で、生態系豊かな土地1万3000ヘクタールを購入して、製紙用のユーカリの木を植えるというものでした。植林事業というのは、掘って石油を採掘して短期で投資が回収される石油と違って、木が成長して伐採できるようになるまで投資は回収できません。成長が早い樹種でも5~8年、長い樹種だと10~20年かかります。

こうした植林事業は環境や地域社会に与える影響が大きく、ステークホルダーとの対話が重要です。私たちも事業の実施にあたっては、地元住民と対話しながら進めることを心がけました。

釣竿の事例を踏まえて実施したこと

事業で関わる地域社会に対して、限られた予算で地域社会に長期に貢献できる方法を現地社内で検討した際にアイデアとしてあがったのは、学校や病院より少ない投資でできる、貯水タンクの各家屋への設置でした。これだと、人件費をあまりかけられなくても、維持管理を住民自身にやってもらうことが可能です。

しかしこれに対して地元住民の方からは、貯水タンクだったら少しお金を貯めれば自分たちで買えるし設置できる。そうではなくて、もっと収入につながる方法を教えて欲しいという希望がでました。

そこで、住民との対話を深め、最終的に以下の支援を実施しました。

① 女性たちに、搾りたての牛乳からのチーズやヨーグルトの作り方を教える
まとまった量が作れるようになったら、自分たちで考えたロゴをつけて近隣の村で販売を始めました。

② 女性たちに、洋裁を教える
洋裁を覚えた女性たちには、植林労働者用の作業服を縫製してもらい、それまで都市部の会社から買っていたロゴ入り作業服を地元で調達し、地域の収益向上に貢献しました。

③ 男性たちに、正式に物を売買するための法的手続きなど、起業の仕方を教える
上記のビジネスを会社組織で行うことで、雇用を創出し、若者の都市部への流出防止にも貢献しました。


実際の活動の様子(撮影:筆者)

支援にあたってはいずれも、国外から外国人の講師を連れてくるのではなく、地元の言葉が分かる人が指導を行いました。住民からは高い評価を得ることができ、毎年継続して取り組みが行われ、費用も結果的に貯水タンク設置よりも安く済みました。

先進国と途上国では、価値観が大きく違います。先進国向けのサステナビリティレポートに掲載する情報としては地味かもしれませんが、毎年継続して続けていき、地域住民の生活が少しずつよくなっていくような取り組みこそが、真のCSRではないかと私は思います。

(リサーチャー 佐藤)

*クレジットのない画像はいずれもPixabayから

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