自社の強みを活かして「LGBTQIA+」など誰もが生きやすい社会へ

2021 / 7 / 1 | カテゴリー: | 執筆者:宮原 桃子 Momoko Miyahara

 

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先日、今国会への提出が見送られた「LGBT法案(LGBT理解増進法案)」。自民党内から出た意見として、基本理念に盛り込まれた「差別を許さない」という文言への反対や、「種の保存に背く」など耳を疑うような意見が報道されました。

電通が4月に発表した「LGBTQ+調査2020」によると、いわゆる性的マイノリティに該当する人は国内に11人に1人(8.9%)います。一般的な小学校のクラスで言えば、1クラスに3人はいるイメージです。当事者である子どもから大人まで、どれほど傷つき、憤りを感じたか想像に難くありません。一人ひとりの存在を種の保存などの観点で評価すること自体があってはならないこと。多様な人びとがいるという事実だけを受け止め、誰もが生きやすい社会を目指すことが、政府に求められていることのように感じます。

こうした中、政府よりも先んじて、多くの企業は、多様な従業員が働きやすい環境を整えているだけでなく、自社の強みを活かしたD&Iの取り組みを進めています。最近では、これまでよく使われてきたLGBTに代わり、より幅広い性の多様性をカバーしたLGBTQ+やLGBTQIA+(※)などの言葉を使う企業も多く、多様性への理解が進んでいると言えます。

  • (※)LGBTQIA+:これまで一般的に使われていたLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)に加え、以下の人びとやさらにそこにも該当しない人を含めたセクシュアルマイノリティを示す。
  • L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシュアル、T=トランスジェンダー
  • Q=クエスチョニング(自分の性別や性的指向が決められない、迷っている人など)
  • I=インターセックス(体の性の様々な機能・形・発達などが、一般的な男女のいずれにも一致しない人。性分化疾患/DSDとも言う)
  • A=アセクシュアル(性的指向が誰にも向かない無性愛者)

自社の強みを生かし、当事者の視点に立った課題解決へ

社会には、当事者の立場にならなければ、なかなか気づきづらい課題も多くあり、企業は自社の強みを活かした貢献が求められています。当事者からよく聞かれる課題の一つは、トイレです。例えば心の性は男性、身体の性は女性のトランスジェンダーの方は、女性のトイレにも男性のトイレにも入りづらいことが多く、誰でも使える多機能トイレがない所もまだまだ多いのが実情です。「オフィストイレのオールジェンダー利用に関する研究会」の調査によると、トランスジェンダーの約4割が、利用したいトイレを利用できていないという実態が明らかになっています。

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この課題に対して、トイレやお風呂などの水まわり製品や窓・ドアなどの建材を手掛けるLIXILは、新しいコンセプトの公共トイレ「オルタナティブ・トイレ」を提案し、本社に設置しています。オルタナティブ・トイレの空間入り口には、「自分にあった個室をお選びください」という空室表示モニターが示され、空間内に複数あるトイレの中から誰もが自由に選べる構造になっています。ポイントの一つは、誰がどのトイレを利用しているかが見えにくい構造。パブリックな中央通路の両側には、性別を問わず誰でも使える個室トイレを3室(うち1室は多機能トイレ)配置し、さらに進んでぐるりと回り込んだ死角部分に、男性・女性それぞれのトイレと手洗いコーナーを設けることで、人目を気にすることなく、最適なトイレを選べるようになっています。水まわり製品という自社の領域で、当事者の抱える困難に寄り添う取り組みと言えます。

また、マスターカードは、トランスジェンダーなどの人びとが、心の性に合った名前を印字できるクレジットカード「True Name」カードを、シティバンクと協働して提供。様々な事情で、心の性に合った性別への変更や改名ができていない当事者にとっては、日常の買い物一つにも困難があります。クレジットカード上に印字された本名から想定される性別と、心の性に合った容姿や服装などの見た目が異なると、店側から本人かどうか怪しまれたり、差別を受けたりすることがあるのです。当事者の立場に立ってみなければわからない日常の困りごとを把握し、取り組んでいる事例です。

その他にも、バービーで有名な玩具メーカーの米マテル社は、性別が設定されていないジェンダーニュートラルな着せ替え人形「Creatable World」を2019年から発売。また東京ディズニーリゾートでは、今年3月から「Ladies and gentlemen(レディース・アンド・ジェントルメン), Boys and Girls(ボーイズ・アンド・ガールズ)」の英語アナウンスから「Hello Everyone(ハロー・エブリワン)」など、ジェンダーの多様性に配慮した表現に変えるなどの取り組みもあります。

企業は、さまざまな多様性に配慮した制度やオフィス環境を整えることで、従業員が生き生きと活躍できる場を広げ、また多様性に配慮した製品・サービスを展開することで、多くの人びとの日常を変え、社会が変わる波を広げていくことができます。まだまだ法的な制度や公共政策などが不十分な日本でも、企業や私たち一人ひとりの意識やアクションの積み重ねで、社会全体が大きく変わっていくことを期待したいです。

(宮原桃子/ライター)

 

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