原産地と消費者をつなぐ責任

先日、アボカドの栽培がアフリカゾウの生存を脅かしている、というニュースを見かけました。多くのメディアで取り上げられていたので、すでに目にされた方も多いかと思います。このニュースを見て、企業の情報開示の視点から少し考えてみました。

まずはニュースの概要から。ヘルシーでおしゃれなイメージから、カフェのランチなどでよく目にするアボカド。1990年代以降、健康志向の高まりから欧米諸国での消費量が急増し、日本での消費量も年々増加しています。そうしたグローバルでの需要の高まりを受け、ケニアは2018年にアフリカ大陸でトップの輸出量を誇るようになりました。他の農産物を生産するよりも利益が高いことから、ケニアでは近年、アボカド栽培に移行する農家が増えており、そのほとんどは輸出されているとのことです。

長年、象牙のために密猟の対象※となってきたアフリカゾウ。今も日本の対応は物議を醸している状況ですが、最近では密猟に加え、農産地への”土地利用の変化”により、アフリカゾウの個体数が著しく減少しているとのこと。アボカドを栽培するための用地やその周囲に設置された電気柵により、ゾウが移動するルートが妨げられているそうです。IUCNは3月、アフリカゾウについて、絶滅の危機の度合いを示すランクを、これまでの「VU(危急種)」から「EN(絶滅危惧種)」へと引き上げました。

日本の市場で販売されているアボカドは、現時点ではまだケニア産のものはありませんし、アボカドだけが悪いわけではなく、その一例に過ぎません。

でも、「自身の健康のために」などの理由で、気づかぬうちに、海外からの輸入農産物を通して遠くアフリカの動物を傷つけているとしたら?

* * *

こうした情報はもしかしたら、飲食業界ではある程度知られているトピックかもしれません。一方で、消費者はこうした情報を耳にしたときどのような反応を示すでしょうか。

近年、サステナビリティへの関心が高まっている上、特に高い関心をもつ若い世代は、重要な情報を開示していなかった企業に対し、不信感を持つ可能性があります。特に、日本でも動物園などで人気の高いゾウだとしたらなおさらです。これは企業にとって非常に深刻なリスクにつながります。

“土地利用の変化”に関する開示については、さまざまなガイドラインが整備されてきており、GRI304-1、また、WEFのコモンメトリクスでもNature lossとして項目が設けられています。しかしながら、この項目について情報を開示している国内の企業は決して多くはありません。この状況では、消費者は自分たちが消費しているものが、原産地でどのようなインパクトを環境に与えているか知る手段がないのです。

こうした状況に対し、以前、TNFDに関する記事でもご紹介した森林保護に取り組む英国のシンクタンクGlobal Canopyは、以下の動画で警鐘を鳴らしています。

  • “グローバル化された市場は、私たち全ての人間が生きるために必要不可欠である自然を破壊している。そして、私たちは自分たちが消費するものがどのようなところでどのように生産され、調達されているのか、また、それらが引き起こしている破壊について、知ることができない。情報の不足により、原産地と消費者は遮断されてしまっているのである”(仮訳)

Global Canopyは、このようにグローバル化と複雑なサプライチェーンで見えなくなってしまっていた情報を、さまざまなデータで可視化することを目指しています。

また、英国小売のTESCOのように、消費者の買い物かごの内容が環境に与えているインパクトを可視化する試みを行っている企業も出てきています。そこには、”環境や社会に与える影響を知った上で商品やサービスを選択したい、自身の消費に責任を持ちたい”という、消費者による明らかなニーズが存在します。企業には、原産地と消費者を情報でつなぐ責任があるのです。

さて冒頭の話に戻りますが、IUCNによると、ゾウは行動範囲が広いため広範囲に種子を運ぶことができ、アフリカ中央部の生態系に対して非常に重要な役割を担っているとのこと。ゾウを保護することは、アフリカ中央部の森林の生長促進に、ひいては気候変動の緩和にもつながります。企業が責任を持って原産地の状況を把握し、消費者に対して情報を開示することは、これほどに重要な意義があるのです。

 

※象牙の経緯については、WWFのページでまとめられています。

(岡山奈央/調査分析プロジェクトマネジャー)

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