炭素コストを加味した企業価値 ダノンの試み

2021 / 3 / 29 | 執筆者:野澤 健 Takeshi Nozawa

昨年6月、仏食品大手ダノンは、フランスで新たに制定された企業の形態である「使命を果たす会社」の上場企業第1号となりました。

ダノン、上場企業初となる「Entreprise à Mission(使命を果たす会社)」に―年次株主総会において満場一致で採択―

「使命を果たす会社」とは、財務的な利益の創出だけでない、社会的な側面を会社経営の目的に据えた企業の形です。「使命を果たす会社」となるためには、社会や環境といった公益の創出について、会社の定款に定め、具体的な目標を設定し、達成に向けた進捗を第三者委員会がレビューする仕組みを導入することが求められます。この第三者委員会には必ず1人従業員代表が入っている必要があります。

ダノンの考え方と具体的な取り組みについては、昨年8月の日経新聞への取材に前CEOが詳細を語っています。

「前CEO」と書いたのは、実は今年3月に行われた株主総会で、近年の業績低迷の責任を問われ、トップが交代となってしまったからです。報道によると、第3位の大株主と企業価値向上を目的として積極的に株主としての権利を行使するアクティビストからCEO交代の株主提案がなされ、可決されたそうです。

業績に関連する部分では、ダノンは他社に先駆けて、CO2排出コストの財務諸表への反映に取り組んできました。ダノンの取り組みには、社会的な企業であることを認証するBコープ認証の取得や全従業員への株式付与など様々ありますが、これは特に先進的なもののひとつと言えます。

現在の会計制度では、CO2 は外部不経済となっていて、どれだけ排出しても財務に直接影響はありません。しかし本来であればそうしたコストも含めて企業の利益は算出されるべきであり、また将来的な規制強化の動向も見据えて、ダノンでは排出したCO2をコストとみなして金額換算し、実際の財務諸表に組み込んで、「炭素調整後のEPS(一株当たり利益)」として算出することを2年前から行っています。

上記インタビューでは、「規制などの動向から1トン当たり35ユーロ(約4000円)として計算したところ、利益は半分になった」とあります。実際に財務報告書でどのように記載されているのかを見ると、

  • ・2019年の財務報告書で、炭素調整後のEPSを初めて開示。炭素調整後のEPS(+12%)の方がEPS(+8%)よりも前年比で成長率が高いことを示しています。
  • また様々な取り組みや投資が進んだことで、CO2排出は2019年をピークとして今後は減少に転じるため、2020年以降は炭素コストが減り、炭素調整後の純利益の伸び率は高まると予測しています。
  • ・2020年の報告書では、EPSが3.34ユーロ。そのうち、炭素コストの価格が1.41ユーロであり、炭素調整後のEPSは1.94ユーロとなっています。
  • 結果として、2020年の一株あたりの炭素コストは前年比ー4.1%と改善しているものの、コロナ禍の影響もあり通常の財務業績が悪化し、EPSが-13%、炭素調整後のEPSが-19%となりました。

こうした数値をどう評価し、経営や利益配分のあり方に反映させていくかについての決まった答えはまだありません。ダノンでも炭素コストを踏まえた配当のあり方についての議論を投資家と始めたところであり、「すべての株主に受け入れられるものではない」と昨年のインタビューでも述べられています。また「使命を果たす会社」への転換に対するBNPパリバのCEOからのメッセージで、「炭素調整後のESPといった新しい指標は、サステナビリティの進捗についてステークホルダーとコミュニケーションするためのものであり、従来の財務指標を代替するものではない」と述べられていることも示唆的です。今回の一連の動きは、進むESG・サステナビリティの潮流に対する揺り戻しの動きであるとの指摘もあります。

しかしESG・サステナビリティの動向が本格化する中で、従来の延長線ではない、新たな企業評価の尺度が社会全体で強く求められていることに変わりはありません。トップ交代によりこれまでの試みが中断することなく、ダノンと株主・機関投資家をはじめとするステークホルダーとの議論が進んでいくことを期待します。

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