Sustainability Frontline
ポスト・ブレグジットの英サステナビリティ政策の行方
英国は本年11月に予定されている気候変動COP26の開催国です。2050年炭素排出ネットゼロに向けて、これまでもEV普及や再エネ拡大への施策を進めてきましたが、取組みを加速すべく2020年12月には、2030年の排出削減量を従来の50%から引き上げ、68%削減(1990年比)とする新たな目標を発表しました。
ポスト・コロナ、ポスト・ブレグジットを見据え、環境への投資を通じて雇用を創出するグリーンリカバリーにも意欲的です。2020年11月には「グリーン産業革命」を発表、以下の10の重点施策を打ち出しました。同政策実現のための政府投資は120億ポンド(約1兆7000億円)、民間投資は約420億ポンド(約6兆300億円)を見込み、英国内で最大25万人の雇用創出を掲げています。
- 洋上風力発電の推進:2030年までに洋上風力発電容量を4倍の40GWに拡大、最大6万人の雇用創出。
- 低炭素水素の促進:2030年までに5GWの低炭素水素生産能力を生み出すことを目指し産業界と協働。今後10年間で数万戸を擁する水素都市の実現。
- 新規および高度な原子力発電の提供:クリーンエネルギー源として原子力を推進、次世代の小型最新リアクターの開発。最大1万人の雇用創出。
- ゼロエミッション車への移行加速:電気自動車(EV)の国内充電インフラを拡充。ゼロまたは超低排出ガス車購入助成金制度実施、国内でのEV・バッテリー開発・大量生産に今後4年間で約5億ポンド(約718億円)の投資。
- グリーンな公共交通機関、サイクリング、ウォーキング:排出量ゼロの公共交通機関へ投資、数千台のゼロ排出バスを導入、自転車レーンと鉄道網の拡充。
- ゼロエミッションの飛行機・船舶:ゼロエミッションの飛行機と船舶の開発を進め、脱炭素化が難しい産業のグリーン化を支援。
- より環境に優しい住宅と公共の建物:グリーンホーム助成金と建築断熱資金に10億ポンド(約1437億円)。2030年までに5万人の雇用創出、2028年までに毎年60万台のヒートポンプ設置。
- 炭素回収・使用・貯蔵:炭素貯蔵技術の世界的リーダーになり、2030年までに年間1千万トンの二酸化炭素除去を目指す。最大10億ポンド(約1437億円)を投資し、各産業における炭素回収・利用・貯蔵技術を支援。
- 自然環境保護:英国の面積の30%の自然環境を国立公園等に指定し保全。2025年までに3万ヘクタールの植樹を行い、運営・管理のために数千人の雇用を創出。洪水対策に最大52億ポンド(約7469億円)を投資。
- グリーンファイナンスとイノベーション:ロンドンを世界のグリーンファイナンスの中心地にする。新しいエネルギーの最先端技術開発を支援。
この中でも目玉となっているのが、EV移行への取組みで、ガソリン・ディーゼル車の新車販売禁止を従来想定より5年繰り上げて2030年までに完了します。また再エネの普及を加速させ、10年以内に洋上風力発電容量を4倍にし、全住宅における発電需要以上の供給を目指しています。
2050年ネットゼロの目標達成には、今後10年間で4,000億ポンドのグリーンインフラへの投資が必要との想定もあり、他国のグリーンリカバリー政策の投資想定額(独400億ユーロ、仏300億ユーロ、米2兆ドル)と比較しても少なすぎるとの批判もありますが、ジョンソン首相就任後初めての本格的なサステナビリティ政策パッケージであり、本腰を入れて化石燃料依存経済からの脱却と炭素排出ゼロを目指す方向性を明確に示したということで国内外から期待がされています。
EU離脱に伴い、環境に関する法規制や認証制度も英国独自のものに切り替わっていきます。ただ環境NGOらからは、現在の英国の法律では環境基準の引き下げに規制がないことに懸念の声が挙がっています。EUの環境規制は予防原則(Precautionary Principle)に基づく世界でも最も厳しいもののひとつであり、英国の環境法も大半がそれに基づいているものの、今後政府の判断で、ビジネス優先で環境基準をEU等近隣他国以下に下げることもあり得ることから、基準引き下げができないようきちんと法律で定めることが要望されています。
2020年12月末にブレグジット移行期間が終了したばかりで、まだまだ不透明な部分が多いものの、2050年炭素排出量ゼロ、グリーンリカバリーによる雇用創出とグリーンファイナンスの中心地となる目標に向けて具体的に動き出した同国の今後の展開に注目です。
(奥村彩佳/パートナー)
photo credit: Neri VillによるPixabayからの画像