世界が動き出す、ポストコロナのサステナブルな街づくり

©Ian Sane

世界中でコロナが収まる兆しがない今、各国は予防や治療など目の前にある危機への対応に追われています。しかし一方で、より長期的な視点を持って、ポストコロナの新たな社会に向けた動きも進んでいます。感染症や気候変動、自然災害などのあらゆるリスクを減らし、対応・回復できるレジリエントな社会を目指して、コロナ以前よりも良い社会を作る「build back better(ビルド・バック・ベター)」という概念が世界に広まっているのです。サステナビリティは、この中で重要な柱の一つとなっています。

ビルド・バック・ベターの概念は、政治・経済・社会の仕組みや、地域・コミュニティ、暮らし、教育など、社会を形作るあらゆる分野に関わり、街づくりもその一つです。サステナブルな街づくりに向けては、欧州の取り組みが先行しています。例えば英国政府は、ウォーキングとサイクリングの推進計画に20億ポンド(約2720億円)を投資すると7月に発表しました。自転車レーンや歩道の増強、自転車修理クーポン券の配布、サイクリング研修、e-バイクレンタル制度、医師が治療の一環でサイクリングを指示できる制度など、サイクリング推進を通じて、コロナ対策・CO2削減を目指しています。自転車レーン増設の動きは、ミラノやパリ、ベルリンなどでも進んでいます。

© Paul Krueger

世界の自治体が結束して、サステナブルな街づくりを進める動きも加速しています。サステナビリティ分野の自治体間ネットワークとしては、気候変動対策に取り組む世界97都市で構成される「C40(世界大都市気候先導グループ)」や、持続可能な社会の実現を目指す1750以上の都市が参加する「イクレイ(ICLEI)-持続可能な都市と地域をめざす自治体協議会」などがあります。コロナ禍を受けてC40は、7月に「グリーンで公正な復興に向けた市長アジェンダ」を発表し、グリーンジョブ(※)創出などの雇用支援やクリーンエネルギー、環境に優しい交通、ウォーキング・サイクリング、緑化などの推進を掲げています。

※環境への負荷を持続可能な水準まで低減させながら、事業として採算がとれる仕事

(C40「グリーンで公正な復興に向けた市長アジェンダ」動画)

近年は、政府や自治体に限らず、企業が中心となって進められる事例も増えています。パナソニックが藤沢市と横浜市(および吹田市で予定)で手掛ける「サスティナブル・スマートタウン」や、住友商事を中心とする日本企業コンソーシアムがハノイ市で開発を進める「スマートシティ」など、CO2削減やゼロエミッションを掲げ、再生可能エネルギーやスマートサービスの活用、コミュニティ支援などを推進する街づくりを展開しています。またトヨタも、静岡県裾野市であらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクティッド・シティ(通称Woven City)」を2021年から着工すると発表し、ゼロエミッションのモビリティやカーボンニュートラルな木材建築、再生可能エネルギーの活用などサステナビリティ推進を柱の一つに掲げています。

市民レベルでも、さまざまな取り組みが進められています。持続可能な社会に向けて地域を変えようという市民運動「トランジション・タウン(Transition Town)」は、2005年頃英国で生まれて50カ国以上に広まり、日本では京都や浜松、鎌倉など50以上の地域で活動が行われています。また、街ぐるみでフェアトレードを推進する「フェアトレードタウン(Fairtrade Town)」は、世界で2000以上、日本でも熊本や名古屋、浜松など6都市が認証されています。いずれの活動も、まだサステナビリティが今ほど叫ばれていなかった2000年代初頭に始まったものですが、こうした地道な地域活動の積み重ねは、都市のブランディングにもつながっています。例えば、米国のポートランドはサステナブルな街として世界から注目され、サステナブルな企業や店舗が集積し、これにより意識の高い住民や観光客を引き寄せています。

フェアトレードタウンであるダブリン市での中学生の活動の様子 © The Irish Labour Party

コロナ禍の今、日本では短期的な経済回復やGo toキャンペーンのような振興策に目が行きがちですが、世界のさまざまな国ぐにや都市は、より長期的な視点から新たな国や街づくりのチャンスと捉えて進んでいます。世界のサステナビリティへの取り組みは、今まさに重要なターニングポイントを迎えており、ポストコロナにおける地域の新たなブランド価値を形作っていくのではないでしょうか。

宮原桃子/ライター)

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