サーキュラーエコノミー実現へ、業界連携に広がり

2020 / 12 / 17 | カテゴリー: | 執筆者:宮原 桃子 Momoko Miyahara

11月に、ファッション業界で注目すべきプロジェクトが発表されました。従来は廃棄されていた衣服や生地を回収・繊維化して、新たな生産に活用する「循環型ファッション」を推進する「NEW COTTON PROJECT」です。フィンランドのバイオテック企業Infinited Fiber Companyを中心に、アディダスやH&Mなどのブランド、繊維会社、リサイクル技術会社、プラットフォーム企業、大学・研究機関など12社が参加し、EUが助成しています。サプライチェーンの上流から下流まで、多様な業界プレイヤーが結集することで、実現性が高く有効な循環型ビジネスモデルを作り出そうとしているのです。期限を3年間と限定していることも、実現に向けた意気込みを感じます。

このプロジェクトは、「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」実現に向けた動きの一つです。サステナビリティを語る際、最近必ずと言っていいほど耳にする言葉ではないでしょうか。これまでの経済は、「Take(資源を採る)」「Make(作る)」「Waste(捨てる)」という、大量廃棄を伴う一方通行のリニアエコノミー(直線型経済)でした。一方、サーキュラーエコノミーは、廃棄されてきた製品や原料を「資源」と捉えて、廃棄物を出すことなく資源を循環させる経済の仕組みです。気候危機や環境汚染などに緊急の対策が求められる中、サーキュラーエコノミーは大きなカギを握っており、今さまざまな企業が業界を超えて連携しながら、実現に向けて取り組みを加速させています。

画像:サーキュラーエコノミーの概念

プラスチック包装容器の分野では、デジタル技術で資源再利用を進める「HolyGrail(聖杯)」プロジェクトが、先駆的な取り組みをしています。2016年から、サーキュラーエコノミーを推進する英エレン・マッカーサー財団が主宰する「New Plastic Economyイニシアチブ」の下に始まった同プロジェクトは、P&Gが中心となって、ネスレ、ロレアル、ダノンなど大手29社が参加しています。「デジタルウォーターマーク(電子透かし)」技術で、パッケージ全体に商品や包装素材に関する情報を埋め込む「インテリジェント・パッケージング」によって、ゴミ分別センターで瞬時に情報をスキャンし、分別と資源再利用の高度化や効率化を進めています。

動画:HolyGrailプロジェクト(HolyGrail2.0)

2016年から2019年の第一フェーズ(HolyGrail1.0)では、参加企業が連携し、実際のオペレーション上で技術やフローなどを検証しました。食品と非食品、新素材やさまざまな素材が混在する容器、圧縮されたペットボトルといった難易度の高い分別の検証や、生産・物流・小売・家庭・ゴミ回収・リサイクルといったサプライチェーン全体での実証実験が、3年間続けられたのです。2020年~2022年の第二フェーズ(HolyGrail2.0)は、約2500の会員組織を持つ欧州ブランド連合(European Brands Association/AIM)が推進組織となり、包装容器業界の85社以上の企業も合流。この仕組みで使われるウォーターマーク技術(Digimarc)が最終決定され、業界全体での導入に向けて、プラスチック容器にデジタルウォーターマークを埋め込むための仕様や、カメラやライト、データ管理など分別機械に必要な仕様など、オペレーションに必要な詳細を確定する作業が進められています。

この他にも、サーキュラーエコノミーの実現に向けた企業・業界間連携を進めるプラットフォーム「Circular Economy100(CE100)」には、世界130社以上が参加して、さまざまな領域・テーマで業界横断的なプロジェクトが進行しています。米国でも、サーキュラーエコノミーに特化した投資ファンド「クローズト・ループ・パートナーズ」の支援の下、ウォルマートやターゲット、CVSなどの小売大手コンソーシアムが、使い捨てレジ袋に代わるソリューションを開発する「Beyond the Bag Initiative」といった業界横断型プロジェクトもあります。深刻な気候危機を目の前に、スピード感を持って具体性のある有効なサーキュラービジネスモデルを確立するためには、さまざまな企業が業界横断的に連携することが必要不可欠と言えます。

この5年ほどを振り返ると、世の中におけるサステナビリティへの関心や取り組みは、大きく変化しました。大人から子どもまで多くの人がSDGsを認識し、企業が次々と気候変動対策を発表し、全社を挙げて取り組みを進める…、そんな時代になりつつあります。一方で、表面的なパフォーマンスに留まり、実態が伴わない取り組みに対しては、「グリーンウォッシュ」「SDGsウォッシュ」などと厳しく批評される土壌も生まれています。こうした時代において、企業はスピード感を持って、具体的で有効な取り組みを進めることが期待されています。

宮原桃子/ライター)

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