Sustainability Frontline
すべてのステークホルダーを通して社会に価値を提供する
新型コロナの影響を受け、Covid-19 and Inequality: A Test of Corporate Purposeという報告書が発行されています。
今年の7月~8月にかけて、世界53カ国のさまざまなステークホルダー(企業、投資機関、評価機関、NGO、市民社会、研究機関、コンサル、メディア、政府など幅広く)を対象に、新型コロナの影響を受けて、改めて企業の存在意義について調査した結果をまとめたものです。
報告書のなかで「ビジネスの目的はなんだと思いますか?」という質問に対し、「株主に利益を配分するため」と答えた人が8%であったのに対し、92%の人が「ビジネスの目的はすべてのステークホルダーに対し、価値を創造すること」と回答したとのこと。非常事態にこそ、企業は利益だけのために存在するのではなく、社会的な存在意義が必要だ、と多くのステークホルダーが考えていることが鮮明になりました。
また、世界経済フォーラム(WEF)は今年の9月、ステークホルダー資本主義レベルを測定するための指標Measuring Stakeholder Capitalismと題したホワイトペーパーを発行しました。
ステークホルダー資本主義とは、株主資本主義に対する言葉として広がり、株主だけではなく、従業員、顧客、サプライヤー、地域社会などすべてのステークホルダーを重視するべき、という考えであり、2020年1月に開催されたWEF年次総会(ダボス会議)でも大きく取り上げられました。
このように、コロナ禍において世界では、企業はすべてのステークホルダーのために価値を創造するべき、という考えが定着しつつあります。
しかしながら翻って国内では、過去にこちらのレポートでも紹介しているとおり、欧米に比べ、ステークホルダーのなかでも投資家、評価機関を重視する傾向があるようです。
この”ステークホルダー”という用語、日本語では「利害関係者」と訳されることが多いですが、この「利害関係者」はもともと会計学の分野で使われ始めた言葉です。そのためもあるのか、国内の企業が理解しているステークホルダーと欧米の企業がイメージしているそれとは、ややギャップがあるように感じます。
米国のコカ・コーラのこちらの動画を見ると、海外の企業がステークホルダーをどんな人たちと捉えているのかイメージが湧きやすいかもしれません。コカ・コーラは、自社のパーパスである “Refresh the world, Make a difference”は、「自分たちだけでは実現できるものではない」として、その実現の協力者としてステークホルダーを挙げています。
ステークホルダーは企業と社会との接点になる人たちです。持続可能な社会の構築に向け、企業が社会のために新たな価値を創造するために、その実現の協力者としてステークホルダーを特定する必要があります。
そして企業はステークホルダーを通して、もっと社会にインパクトを与えることができる存在である、ということを日本の企業の皆さんにも、これまで以上に意識していただけることを期待しています。
(岡山奈央/調査分析プロジェクトマネジャー)