Sustainability Frontline サステナビリティをカタチに
焦点は方針から実態の有無へ サプライチェーンの人権対応評価
サプライチェーンの強制労働への対応状況を評価する、KnowTheChainベンチマーク2020年版のICT部門の結果が発表されました。2016年から隔年で実施され、今回で3回目となります。
今年は初めて報告書の日本語版も発表されました。それだけ、日本企業への注目が高い(裏を返せば取り組みが不十分と認識されている)とも言えます。
結果は、どうだったのでしょうか。
2020年情報通信技術(ICT)部門ベンチマーク結果報告
https://knowthechain.org/wp-content/uploads/2020-06-KTC-ICT-report-Japanese-summary.pdf
- ●ICT部門全体の平均は100点中30点。50点以上を獲得したのは調査対象49社中、11社のみ(24%)。
- ●上位3社はヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)(70点)、HPとサムスン(共に69点)。インテル、アップル、デル、マイクロソフトが続く。
- ●一方の日本企業10社の平均は18点。トップはソニーの36点。日本企業平均より高いスコアとなったのは日立製作所、任天堂。村田製作所、東京エレクトロンキヤノン、パナソニック、HOYA、京セラ、キーエンスは平均以下(獲得スコア順)。
- ●特にスコアの高い企業は、採用活動に伴う問題への対処に力を入れており、債務労働になることが問題視されている採用時に労働者が徴収されるリクルートフィーの払い戻しの実施や、防止のためのメカニズムについて開示を進めている。
- ●一方で全体として遅れているのは、労働者への働きかけ、結社の自由、苦情処理メカニズムからなる「労働者の声」の項目で、特にサプライチェーンの労働者が結社ならびに団体交渉を自由に行えるよう保障できている企業は1社もない。
今回の調査結果で注目したいのは、1つはアジア企業全体で見たときの日本企業の結果です。対象企業数の違いもあり単純比較はできないものの、国別の平均点数で日本企業は台湾企業や韓国企業より低くなっています。また韓国企業トップのサムスンは、過去2回の調査で7位、6位と順位を上げ、今回は2位にランクインした一方、日本企業トップは過去2回が日立で共に12位、今回はソニーで18位でした。日本企業においても改善は見られるものの、グローバルトップ企業の取り組みが進み、要求される期待値も高くなっていることから、評価が下がる結果となっています。
もう1つは、方針と実践の乖離が大きいという点。日本企業においてはそれが特に顕著のように感じます。具体的には、強制労働の禁止がサプライヤー行動規範には盛り込まれていても契約書では要求されていない、苦情処理メカニズムの設置がうたわれていても労働者が信頼して利用しているかの証拠(実績)の開示がない、といった例が挙げられます。
(報告書P5より抜粋)
外部評価を上げるためにとりあえず方針だけ整備するという企業が散見されますが、それだけでは不十分であることがはっきりしてきたと言えます。では具体的にどうしたらいいのかですが、最初の一歩としてたとえば以下のようなことが考えられます。
●サプライチェーンの人権対応において、どのようなことが企業に求められているのかを読み解く。KnowTheChainの評価手法が日本語版でも公表されているので、まずはこちらを理解することをお勧めします。
●他社の先進事例から学ぶ。報告書には様々な企業の事例が載っています。要請に対してどのように取り組んでいるのか、各社のサステナビリティレポートなどの公表情報と照らし合わせながら、ヒントを探っていくことができます。
●実践の具体的な事例や数値に関する情報開示を進める。具体的な事例を1つでも2つでも作り、証拠となる情報を集め、開示を進める。
●業界イニチアチブに参加する。グローバルサプライチェーンの問題に取り組むレスポンシブル・ビジネス・アライアンス(RBA)はその一つです。RBA参加企業の方がスコアが高いという結果が出ており、実際にRBAに参加したことで取り組みが進んだという声も聞きます。
人権の取り組み推進には、方針を実態に落とし込み、人権に悪影響を与えるリスクを把握し、影響の予防・緩和に取り組み、当事者が声を挙げることができる仕組みを作り、そのプロセスを回していくことが重要です。そしてその過程においては、当事者とのエンゲージメントが何より求められます。
コロナ禍で雇用や労働環境の問題への大きな影響が懸念される今だからこそ、改めてサプライチェーンの人権について見直したいタイミングです。
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