Sustainability Frontline
2050年のモノの流れをイメージする
新型コロナウイルスの影響で商品の提供が遅れる混乱が生じており、商品一つをとってみても、世界中にサプライチェーンが張り巡らされていることを改めて実感した消費者も多いことでしょう。
企業にとってみても、BCP(事業継続計画)について考える機会は増えてきていたものの、感染症により、これほどのインパクトがもたらされることまでは想定できなかったと思います。
そのような状況のなか、今後のサプライチェーン対策を強化する必要があるのはもちろんなのですが、見直しの際の一つのヒントとして、2050年の社会を描いていた、あるシナリオを思い出しました。
2050年といえば、まだまだ先のことのようにも思えますが、社会のあり方のさまざまな可能性をイメージしておくことは、ビジネスの観点からはもちろん、レジリエンスの観点からも有効でしょう。
未来のシナリオとして有名なのはシェルのシナリオですが、物流の未来について、DHLが出しているシナリオがあります。
そのなかでも興味深いのが、3Dプリンターによる社会へのインパクトです。
2050年には多くの家庭に3Dプリンターがあり、必要なものは設計図や材料などの情報のみオンラインで購入、ダウンロードし、家庭でモノを作る、といった姿が描かれています。
各家庭への普及よりも、さらにインパクトが大きいのは大量生産への活用です。
スペアパーツ(補修部品)もオンデマンドで対応できるようになれば、製造打ち切り後も大量に在庫を保管しておく必要もなくなり、物流量も減少します。
(3D Printing and the Future of Supply Chains, DHLより)
米国のコンサルティング会社であるWohlers Associatesは、3Dプリントの市場規模は2016年の67億米ドルから2040年には1兆1300億米ドルへと成長すると予測しています。
また、オランダのINGが発行している報告書によると、3Dプリンターにより、2040年には世界の貿易の40%が不要になるとの見方を示しています。
つまり、モノの生産、物流プロセスは劇的に変化し、今は海外からの輸入に頼っている部品も、設計や原材料などの情報さえ送ってもらえれば、製造は国内でできるようになり、最終製品の国際輸送は大幅に減少する可能性があるのです。
モノの国際的な移動は大幅に減少し、情報だけが移動する。
これらは、数ある未来像の一つに過ぎないかもしれませんが、新型コロナの影響でグローバルサプライチェーンが混乱に陥っている今、これまでの枠に捉われず、今後のモノづくりの戦略を改めて見直してみるチャンスと捉えることもできるのかもしれません。
(岡山奈央/調査分析プロジェクトマネジャー)