Sustainability Frontline サステナビリティをカタチに
今こそ、長期的な視点での企業のパーパスを
新型コロナウイルスの影響で世界の市場が打撃を受けているなかで、ESG関連のファンドが従来のファンドと比べ、健闘しているようです。
とはいえ、当然ESG関連のファンドも大幅に下落しているのですが、Bloombergの分析によると、米国のESG関連ファンドの下落率は、従来の代表的な株価指数であるS&P500に比べ、ほぼ半分に留まっているとのことです。
また、同じく米国の投資信託格付け情報サービス最大手Morningstar社も、同様の見方を示しています。
これまではESG投資は社会貢献的な要素が大きく、リターン向上になかなか結びつかないという懐疑的な見方もありましたが、短期的な利益を追求するのではなく長期的な持続的成長を目指すESG投資は、今回のような大きな問題や変化が起きたときこそ、その動きを注視する必要があります。
英紙フィナンシャル・タイムズが毎週発行しているニューズレター “Moral Money“では2019年6月に発行開始して以来、投資家が民間資本を社会課題解決のために活用するESG投資やインパクト投資、またSDGs等に関連する分析を紹介していますが、新型コロナウイルスによる影響を踏まえ、今こそビジネスの存在価値や意義(パーパス)を見直すときが来ている、と主張しています。
その一例として、自社が掲げるパーパスに沿った動きをいち早く示したAmerican Expressは、自社が新型コロナウイルスの影響で大打撃を受けたとしても、従業員の解雇は行わないと早々に宣言しました。American Expressは以下のような目標を掲げているのです。
- Our Mission is Helping Others Accomplish Theirs
– We’re here to help our customers and their communities thrive. That means putting our service ethic to work enabling communities to prosper, and assisting when a helping hand is needed. –
(私たちは顧客やコミュニティの繁栄をサポートし、彼らが助けを必要としているときに手を差し伸べるために存在する)
また、世界経済フォーラム(WEF)は”責任ある企業は、新型コロナウイルスに立ち向かうための一歩をどのように踏み出すことができるか”と題した記事 の中で、Microsoftが時間給制の労働者に対し、実際の労働時間が減ったとしても通常の報酬を支払い続けることを約束したことを紹介しています。
Microsoftの掲げるビジョン は、
- Empowering others
-Our mission is to empower every person and organization on the planet to achieve more.-
(地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようエンパワーする)
その上でWEFは、”こうした企業は結果的に、よりレジリエントで、より忠誠心の強い労働力を得ることができ、長引く経済的な荒波の中でも優位な地位を築くことができる” と述べています。
これらの企業は日頃から長期的な視点で自社の存在意義を明確に打ち出しているため、危機的な状況に直面した際にも、自社が優先的に取り組むべきことをすぐに特定することができるのでしょう。”従業員を守ることは、自社にとって不可欠である“という考えから逸れることなく、忠実に実践しているかどうか。投資家だけでなく、世界中のステークホルダーが注目しています。
自社は何のために、誰のために成長を続けていくのか。
現時点で当たり前に思える生活にいつかは変化が起こることを想定し、長期的な視点を企業経営に取り入れる必要性が、今後ますます高まっていくことは間違いないでしょう。
(岡山奈央/調査分析プロジェクトマネジャー)