従業員を越えた範囲への企業の社会的責任

2020 / 1 / 31 | 執筆者:野澤 健 Takeshi Nozawa

最近気になった働き方に関するニュースが2つあります。

1つは、配送業務を請け負っていた配達員が過労死し、遺族が佐川急便を訴えたというニュース。遺族側は実質的に会社の指揮下にあったということで会社を提訴し、会社側は、契約上は個人事業主で雇用関係にはなく、安全配慮義務も負わないと主張しています。

「名ばかり事業主で過労死」51歳男性の遺族、佐川急便に賠償求め提訴(毎日新聞)

もう1つは、ウーバーイーツの日本法人が、配達員が結成したユニオンとの団体交渉を拒否したというもの。配達員は、報酬引き下げの撤回や労働環境の改善、透明性の向上を求めて、会社との交渉を求めています。一方でウーバージャパンは、配達員は個人事業主としてアプリを提供しているオランダのUber Portier B.V.社と契約しており、労働組合法上の労働者に該当しないため、団体交渉には応じないとしています。

“自由な働き方”に何が起きているのか!?ウーバーイーツ配達員の声(BLOGOS)

いずれも問題になってくるのは、従業員としての雇用契約ではなく、個人事業主としての業務委託契約であるという点です。企業側は、雇用関係にないため、会社側に法的責任は発生しないという姿勢です。

しかし法的責任があるかどうかの議論とは別に、自社の影響力の範囲で実際に問題が起きていることは事実であり、それを無視するような対応は企業の社会的責任の観点からも誠実さを欠くものです。

タニタの新しい社員制度も話題になりました。希望する従業員に対して、従業員時代の業務内容・報酬をベースに雇用契約から業務委託契約に切り替えるというものです。

タニタ社長「社員の個人事業主化が本当の働き方改革だ」(日経ビジネス)
社員が個人事業主に タニタの改革が合理化でない理由(NIKKEI STYLE)

従来の業務内容を「基本業務」として、給与・賞与に加えこれまで会社が負担していた社会保険料や交通費も加味した形で基本報酬を設定し、その枠を超えた場合は「追加業務」として別途交渉する。今のところ、この制度に応募したメンバー全員の収入がアップしたといい、今後は将来的に全員が個人事業主になることを前提に採用活動を行う考えと述べています。

また独立したメンバーは全員「タニタ共栄会」という相互扶助組織に加入し、必要に応じて個人を代表して契約等を行うといった形でのサポート体制の構築にも取り組んでいます。

私は個人が独立して組織と対等な関係性になっていくという方向には賛成ですし、現状の労働法制や雇用慣習を変えていく必要性も感じています。そうしたチャレンジも大いにすべきだと考えます。

ただ、今の日本社会の状況を考えると、手放しでは賛成できません。現状では、ほとんどの企業は、社外として位置付けられる業務委託の関係にある労働者や取引先に対して責任を負う意識は希薄です。働き方改革を進めた結果、自社の残業時間は減ったが、しわ寄せは外に及び、委託先の労働時間が増えたというケースも珍しくありません。

また個人の側にも、個として自律して自身をマネジメントするスキルを身につけておらず、最低限必要な権利に関する知識や、機会とリスクに関する十分な認識をしていないことがほとんどです。企業と個人が対等な関係性を結ぶ前提条件が整っているとは言えません。

企業も、個人も、双方が変わっていく必要があり、また労働法制や社会の制度設計も、誰も取り残されないようにしながら、これからの社会にあった形で発展的に進化させていく必要があります。

様々な問題が既にある、あるいは将来想定されるのであれば、どうしたらそうした問題を防げるか、解決できるかに貢献できるかまでを考えて取り組んでいくことこそが、変化の時代に新しいチャレンジをする、本当の意味での社会的責任だと考えます。そうした点からも、タニタには是非、新しい制度に取り組んだ結果得た学びや課題について(自社だけでなく社会全体にとってという視点で)、積極的に共有していくことを期待します。

かくいう私たちも、組織と個人の柔軟な働き方のメリットを最大限享受している立場です。より積極的・主体的に責任を果たし、よりよい組織と個人のあり方が実現するよう貢献していくべく、現在いくつかの新しいチャレンジに挑戦しています。また報告できればと思います。

TeroVesalainenによるPixabayからの画像

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