「私たち抜きに私たちのことを決めないで」〜組織や事業に当事者の声を

2020 / 1 / 8 | カテゴリー: | 執筆者:近藤 圭子 Keiko Kondo

11月に書いた記事「GRIに見るダイバーシティ情報開示 障害者雇用率から一歩進んで」にお問い合わせをいただいたことをきっかけに、障害のある方の権利について学んでいます。

本記事のタイトルに使った「私たち抜きに私たちのことを決めないで(Nothing About Us Without Us)」とは、障害者権利条約を策定する議論の過程で繰り返し使われたスローガンだそうです。当事者の方や福祉を専門とする方、継続してアンテナを張ってこられた方にはお馴染みかもしれませんが、私自身にとっては新鮮で、かつ胸に落ちる言葉でした。

さて、当事者の声を中心に据えたプロジェクトとして、IKEAイスラエル「ThisAbles」が昨年2019年に話題になりました。

このプロジェクトでは、
  • ・カーテンを引きやすくする取っ手
  • ・棚の中身を音声で知らせるボタン
  • ・ペンを持つためのサポーター

など、さまざまなタイプの部品を開発。

これらを通常のIKEA製品に取り付ければ、障害があっても同じ製品を使いやすくなるのです。部品の設計図は世界中どこからでもダウンロードでき、3Dプリンターで制作できます。プロジェクトは2つのNGOとの協働で行われ、動画にあるようにIKEA店舗でのハッカソンを経て、障害のある方たちの意見を基に設計されました。

動画の終盤にある「can also feel comfortable in their own homes like everybody else」を見て、私は、障害者権利条約で繰り返される言葉「他の者との平等を基礎として」を思い起こしました。条約の成立過程を紹介した書籍(※)には、条約は「障害者に特別な権利、新しい権利」を求めているのではないとあります。グラフ用紙に一本の横線を引いたゼロ地点を健常者としたときに、そこから下のマイナスゾーンを埋めてゼロをめざそうとするのがこの条約なのだ、と。マイナスゾーンを埋めるためのあらゆる合理的配慮は、当事者の声を聴くことで、生み出されていくのだと思います。

ところで、「私たち抜きに私たちのことを決めないで」という言葉は、1966年に国連で採択された国際人権規約の「すべて人民は自決の権利を有する」にルーツがあるそうです。「すべて人民は」に着目すると、「私たち抜きに」の「私たち」に、障害のある方以外も当てはめられると言えそうです。

多様な性自認・性的指向の方、育児とキャリアの両立を目指す夫婦、日本に住む外国にルーツのある子どもたち…。さまざまな立場の当事者を想像しながら「私たち抜きに私たちのことを決めないで」とつぶやくと、その通りですよねという思いが心の中に広がります。ユーグレナのCFO(Chief Future Officer)募集のように、ガバナンスに将来世代の声をいれるのも「私たち抜きに私たちのことを決めないで」に応えるものといえるでしょう。

前述の書籍のあとがきに次のような言葉がありました。

屈強な大人を前提に仕組まれている社会、いつのまにか強者の論理が中央値になってしまった社会、これらに猛省を迫るのも権利条約なのである

2020年代は「屈強な大人」でなくても生きやすくしたいものです。それには当事者の声が必要だ――新年に、そう思いました。

(近藤圭子/プロジェクトマネジャー)

※参考文献)藤井 克則 著『私たち抜きに私たちのことを決めないで――障害者権利条約の軌跡と本質』やどかり出版、2014年

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