人権の開示状況チェックに「国連指導原則 報告フレームワーク」を

2019 / 12 / 4 | 執筆者:近藤 圭子 Keiko Kondo

かねてから「日本企業は弱い」と指摘されてきた人権の情報開示。企業間の開示レベルに差が大きい分野でもあります。

開示拡充を検討するとき、参考にしたいのが、Shiftが発行する「国連指導原則 報告フレームワーク」です。12月10日「世界人権の日」を前にあらためて読んでみました。

国連指導原則 報告フレームワーク日本語版(PDF)
(日本語翻訳版は、味の素が社内向け用途に制作したものを、一般に公開したのだそうです)

このフレームワークは、独立した人権報告書の制作のみならず、通常のCSRレポートにおいても参照できるものです。発行済のCSRレポートのうち人権部分をフレームワークに当てはめたり、他社と比較したりすると、次のアクションのヒントが見えてくるはずです。

7原則と12フレームワークからなる「国連指導原則 報告フレームワーク」

「国連指導原則 報告フレームワーク」は、「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、情報開示の考え方をまとめたものです。7つの報告原則と12の報告フレームワークが示され、一つひとつのフレームワークについて詳細な説明がなされています。実務的には、DJSIやFTSE等との対照表があることも便利です。

報告原則の一つには「進行中の改善内容を説明する」とあります。人権尊重の取組みとは時間がかかるものであり、一方、企業の変化とともに人権リスクは変わっていく。「つまり、『完了』と報告できるような有限のプロセスではないということです」。「不十分だから公開できない…」と思いがちな中、勇気づけられる一言です。

あらためて「『人権』とは何でしょうか?」

あえて付属文書にも注目したいと思います。「『人権』とは何か」は明確に答えづらい問ですが、「ビジネスと人権の関係」の項目には「『国際的に認められた人権』の概要」がまとめられています。世界人権章典、労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言を基にしたものです。

たとえば、
・自決権
・生存権
・拷問、あるいは残虐、非人道的または品位を傷つける扱いもしくは処罰を受けない権利
・奴隷状態、隷属状態または強制労働を課されない権利
・身体の自由及び安全についての権利
など約30の権利が、その概要、人権への影響に企業が関与する場合の事例とともに、表に示されています。

「自決権」など名称だけではわかりづらくても、事例があるので、把握しやすいかと思います。ただ、注意すべきなのは、企業が関与する場合は挙げられた例に限らないこと。人権を脅かされる可能性がある当事者を含めた、社内外ステークホルダーとの議論が必要です。

フレームワークを上手に使って、開示・取組みの不足箇所を把握

2008年「保護、尊重及び救済」枠組みが、2011年「ビジネスと人権に関する指導原則」が国連人権理事会に承認されてから約10年。ISO26000やGRI、OECD多国籍企業ガイドラインにも影響を与え、多くの企業が参照するようになりました。

また、IOC(国際オリンピック委員会)も、2024年のパリ大会から開催都市契約に「ビジネスと人権に関する指導原則」を含むとしています。東京2020大会は適用前ですが、組織委員会は指導原則に基づいた大会にすることを目指しています。

人権への対応と情報開示がますます求められる一方、どこから着手するか迷うケースも伺います。「国連指導原則 報告フレームワーク」は、状況を整理し、社内を動かしていくために上手に使いたいツールです。

(近藤圭子/プロジェクトマネジャー)

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