底辺 への競争を超えて “エシカル”の意味を問い直す

2019 / 12 / 3 | 執筆者:岡山 奈央 Nao Okayama


近年、“エシカル・サプライチェーン”をコミットメントとして掲げ、関連する取り組みを開示する企業が増えてきています。強制労働・児童労働はないか、環境への負担はどうか、法を順守しているか、など海外のサプライヤーを監査し、その監査状況や改善の様子が報告されており、これらの社会的課題を解決していくためには、そうした取り組みは欠かせないものです。

しかしながら、実はサプライチェーンの全体像を把握できている企業はそれほど多くありません。

通常、大手グローバル企業の調達は複雑で、直接取引を行う一次サプライヤーの先に、二次、三次サプライヤーが続きます。
フランスの評価機関であるエコバディス社(EcoVadis)と米ニューヨーク大学スターンセンターが世界各国、さまざまな業種の企業(210社の企業および399社のサプライヤー)を対象に実施した協同調査によると、一次サプライヤーの状況を把握している企業は全体の半分以下の45% 、二次サプライヤーまで把握している企業は23%、三次サプライヤーに至っては全体の4%程度で、残りの28%の企業は全く把握できていない状況でした。

 

つまり多くの企業では依然として、どこの誰が提供したのかわからないものを直接的もしくは間接的に使用し、自社の製品を製造していることになります。一次サプライヤーは当然のこと、二次サプライヤー以降の調達先で も児童労働、強制労働、環境汚染などが行われている可能性が少しでもある限り、いつ批判の矛先が自社に向けられてもおかしくないといったリスクを抱え続けていることになるのです。問題が発覚し、取引先にブランド力のある大手企業の名前があった場合、その批判は瞬く間に世界を駆け巡り、自社のブランドを大きく傷つけることになるでしょう。まずは自社の製品が、どこの誰から提供されたもので構成されているのか把握することが、“エシカル”への第一歩です。

 

でも、サプライチェーンの全体像を把握し、監査項目を全てクリアしてさえいれば本当に“エシカル”なのでしょうか?

グローバリゼーションが進むなか、先進国の企業は競争に打ち勝つために、より有利な条件(低賃金、低規制)の国を求め世界各国に進出し続けています。その先では、そうした企業を誘致するために、規制が緩和された保税区や輸出加工区 などが設けられ、現地の人々は低賃金で、悪質な労働条件の中で働かされるといった事例が現在でも後を絶ちません。

一例として2018年に米国が発表したCountry Reports on Human Rights Practiceでは、米国国境沿いに設けられたメキシコの保税輸出加工区における、低賃金、長時間労働、不当な解雇、社会保障制度の欠如、危険な労働環境、不十分な社会保障等、劣悪な条件での労働などが指摘されています。

一定期間こうした好条件を享受したグローバル企業は、現地の人件費向上などを理由に、より良い条件の国を求めて生産拠点を移転させてしまうことから、それまで携わっていた人々は解雇されてしまうケースも多くあります。

例えその場で 監査のためのチェック項目を順守していたとしても、こうした状況を繰り返している限り、本当の意味で“エシカル” であるとはなかなか言いづらいでしょう。進出先の国で、自社の製品づくりに協力してくれている現地(もしくは移民労働者)の人々が、将来的には経済的にも技術的にも自立し、やがては自分の国や地域の経済発展のために貢献できるようになる。そんな道筋を照らすために日本のグローバル企業にもできることがあるのではないでしょうか。

そうしたことを考えていた矢先、東南アジア諸国連合ビジネス諮問会議(ASEAN-BAC)がASEAN経済の発展に貢献した企業、団体、個人におくる「ASEAN ビジネスアワード2019」で、ASEAN以外に本社を置く企業を表彰するFriends of ASEAN賞を日本企業であるデンソーが受賞したという嬉しいニュースを見かけました。日本のモノづくりをベースに、現地の従業員の育成に貢献したことが評価されたとのことで、昨年のオムロンに続き、二年連続で日本企業が受賞しています。

より良い条件だけを求める“底辺への競争”にはいつか終わりが来ます。その更に先を見据え、長期的にサステナブルでエシカルなサプライチェーンを構築した企業が受け入れられる社会はきっと来るはず。

年末で家族や大切な人と過ごす人も多いかと思います。そんな時に、少しだけ、自社の製品づくりに間接的にでも携わってくれている人たちのことを考え、その人たちも幸せな年末の休暇を過ごせているのか、考えてみる時間をつくってみませんか。

(岡山奈央/プロジェクトマネジャー・リサーチャー)

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