Sustainability Frontline
エネルギーシフト前夜にどう臨む ロンドンセミナー参加報告
7月1日から始まったLondon Climate Action Week(気候アクション週間)の一貫として開催されたPRI(責任投資原則)、Carbon Tracker Initiative、MSCI共催のセミナーに参加してきました (セミナー名: Climate Risk & The Capital Domino Effect – How policy, technology and financial markets can ramp up the energy transition)。
会場は、Magic Circle Law Firm (イギリスの五大法律事務所)の一つである、Allen&Overy のメインビルでした。
窓から見えるのは、City of London ー 銀行などが多く集まるエリア
格付機関や責任投資、気候変動に関係する多数のプロフェッショナルによるプレゼンテーション、ディスカッションが行われましたが、この記事ではその中でも興味深かったスピーチについてご紹介します。
エネルギー転換の破壊的な影響
多くの人は、石油への需要はこのまま増え続け、エネルギー転換には時間がかかり、さらに、政策もなかなか追いつかないというシナリオを想像しているのではないでしょうか。
Carbon TrackerのNew Energy StrategistであるKingsmill Bondさんによれば、それは myth(神話)である、とのことです。
実際、エネルギー業界には破壊的変革が訪れており、これを機会として利益を得る投資家もいれば、損失を被る投資家もいるのではと主張されます。
彼は、この理由についてまず、実は石油の需要は減少しているということをデータを交えて紹介しました。
そして、電気業界ではすでに再生エネルギーが石油よりも安いという状態になっており、運輸業界においてもそれが可能になりそうな現状の中で、温暖化や大気汚染対策の必要性を考慮すると、今こそが政策的転換点なのだそうです。
しかし、この政策的転換にストップをかけているのが石油ロビイングということでした。よって、こうしたロビイストの影響を避けることのできる国では再生可能エネルギーのためのシステム構築、石油への課税がまもなく始まるであろうという推測が紹介されました。
*Kingsmillさんの分析について詳しく知りたい方はこちらから(英語)。
また、Carbon Tracker Initiativeの化石燃料のリスクに関するレポートについては日本語版があります。
不可避である政策的対応
具体的にはどのような政策転換が行われるべきなのでしょうか?この点についてPRIのMark Fultonさんがプレゼンして下さいました。
PRIでは現在、Inevitable Policy Response (不可避である政策的対応、IPR)というものが提唱されています。これは、先ほどのKingsmillさんのプレゼンにあったような大きな変化が訪れようとしている状況下において、各国の政府は気候変動に関してどのような政策をとるべきか、あるいは、「とらざるを得ないか」ということをまとめた提言です。そしてまた、投資家にとっても、この提言を参考にしつつ、今後の政策的トレンドを事前に予測しておくことが重要である、と主張されました。
PRIは今後9月から順次、具体的な内容を公開していくとのことでした。そしてそこでは具体的にどのアセットクラスが影響を受けるのか、どのような産業に最もリスクがあるのかという分析が公表されるようです。現在まだ詳細は明らかにされていませんが、中でも重要なテーマとして、グリーン・テクノロジーが登場するようです。今後数ヶ月間、PRIの動向に注目すべきでしょう。
他にも保険会社や気候変動委員会(英2008年気候変動法により設置された有識者委員会)の方々によって、興味深いディスカッションが行われました。英国では現在エクスティンクション・レベリオン(絶滅への反抗)という団体による気候変動デモが盛んに行われています。また、英国議会も今年、気候非常事態宣言を出しました。
昨年11月に行われたデモ 撮影:Kevin J. Frost / Shutterstock.com
このような流れを受けて、イベントにおける意見交換も非常に熱の入ったものでした。中には「英国で産業革命が始まった以上、我々が中心となってこの問題に取り組んでいかねばならないのだ」と発言する参加者もいました。
そこにはまさしく「他の国、他の人々の行動を待つのではなく、自分たちが何か行動を起こさないといけないんだ」という危機感、自覚が感じられました。
気候変動という地球規模の問題に対しては行動が遅れがちになってしまいますが、ロンドンの情熱ある人々に刺激を受けて、自分には何ができるか、考えるきっかけをもらいました。
(サステナビリティ・コンサルタント 中久保 菜穂@英国/日本)