真のインクルージョンとは? 隠れた障がいへの配慮

近年、さまざまな企業で職場における多様性への取り組みが進んできており、“ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)”という表現が、国内にも浸透しつつあります。

“ダイバーシティ(多様性)”に比べ、ややわかりにくい“インクルーシブ“という表現については、すでにこちらでもご紹介しています。
Inclusive =インクルーシブを理解するために
IntegrationとInclusionとの違いから未来の社会を考える

“誰も排除せず、誰も取り残さず、すべての人のニーズに応える”といった意味合いのこの表現は、SDGsの目標にも何度か登場しますね。

国内外の企業のウェブサイトやレポートでインクルージョンに関連するページを見ていると、ジェンダー、人種、障がい者、外国人労働者などについての取り組みをよく見かけます。

これらの取り組みは確かにどれも“ダイバーシティ”に対応したものですが、果たして本当に“インクルーシブ”なのか? 職場で困っている人は、他にいないのか?

そんな問いに対しての答えの一つとして、欧米で静かに始まりつつあるのが、”隠れた障がい” (invisible disabilities, hidden disabilities)への配慮です。

 

組織・人事のコンサルティング会社であり、世界第三位の保険ブローカーでもあるWillis Towers Watsonが2019年4月に発表した調査結果によると、正社員(常勤)として働く英国の労働者のうち15%の人が、自閉症、アスペルガー症、ADHD、ディスレクシアなど何らかの神経に関する障がいを抱えていると回答したそうです。


Willis Towers Watson Employee Health, Wellbeing and Benefits Barometer 2019Attitudes of UK employees

また、米国の非営利シンクタンクであるCenter for Talent Innovation(CTI)が2017年に発表した調査結果によると、米国でホワイトカラーとして働いている人の30%が、表面上からは認識できない障がい※を抱えている、と回答していますが、そのうち雇用主にも知らせている人は3%程度に留まっていました。

※該当レポートにはinvisible disabilitiesの定義は明示されていないが、この調査に関するHarvard Business Reviewのインタビューの中で、CTIは”鬱状態など精神的に問題を抱えている人や、ADHDに加え、糖尿病なども含まれる”としている。


Disabilities and Inclusion US Findings

この調査のスポンサーには、アクセンチュアやKPMGなどのシンクタンクに加え、CSRに関する先進的な取り組みで知られるJohnson & Johnson やUnilever も含まれています。

こうした隠れた障がいは、自分から周りに言い出しさえしなければ、周りからは気づかれない性質のものですが、この調査の回答者の中には”職場で孤立している”と感じている人が少なからずいたようです。

上述した障がい以外にも、ある特定の状況に遭遇すると強い不安を感じる、落ち着かなくなる、などの問題を抱えている人もいるでしょう。こうした人たちは、普段は問題なく働くことができるだけでなく、中にはとても高い能力を持った人たちもいます。

こうした状況に注目し、改善の重要性を認識した米国のIT企業マイクロソフトでは、隠れた障がいを抱える人も含め、すべての従業員が最も能力を発揮できる環境を整えるための取り組みを行い、情報を発信しています。

Microsoft Accessibility Blog

照明の明るさや音の大きさなど、それぞれの人が心地良いと感じる環境は異なる、とした上で、自分が最も能力を発揮するためにはどのような環境が必要なのか、管理者やチームなどとよく話し合い、お互いがその重要性を尊重することを促しています。

また、Johnson & Johnsonでは“You Belong”キャンペーンを実施し、コミュニケーションを通じて、隠れた障がいを持つ人を含めすべての従業員のエンパワーメントを推奨しています。

You Belong

最も集中でき、生産性を高めることができる条件や職場環境へのニーズは、一人ひとり異なります。

現在の職場は本当にインクルーシブなのか? 繰り返し見直し、それぞれの人材が最も能力を発揮できる職場づくりに取り組む姿勢は、少子化や労働人口の減少が進むなか、今後ますます重要になってくるかもしれません。

(岡山奈央/プロジェクトマネジャー・リサーチャー)

 

このエントリーをはてなブックマークに追加