Sustainability Frontline サステナビリティをカタチに
日本企業初の人権報告書が問うもの
人権報告書。
その名の通り、企業の人権に関する取り組みに特化してまとめられた報告書です。
ユニリーバやマークス&スペンサー、コカ・コーラなど、
世界でもまだ一部の企業しか出していない人権報告書を今年5月、
日本企業として初めてANAが発行しました。
ANAグループ人権報告書
https://www.ana.co.jp/group/csr/human_rights/
ボリュームは17ページほどで、
ANAのこれまでの人権に関する取り組みや、
リスクと考える項目、外部のステークホルダーとの対話の結果などが
簡潔にまとまっています。
個人的に注目したのが、
日本を人権リスク発生の防止に取り組む優先地域と特定し、
外国人労働者の労働環境の把握・改善を宣言していること。
また機内食の調達については、サプライチェーンの上流までの追跡を進め、
一部の材料については生産者までたどり着けるようになっているほか、
ビジネスパートナー向けの説明会を開催し、
働きかけを進めていることもわかります。
反面、物足りなさも残ります。
全体的に取り組みに着手したばかりで、まだ現状把握の段階。
人権課題がどのように管理され、
その実態がどうなっているのかはわかりません。
定量的な数値がなく、また是正された報告もありません。
次に何をしていくかということも、部分的には記述がありますが、
必ずしも明確ではありません。
しかし、そうした課題も当然踏まえた上で、
あえて報告書を出したのだと思います。
これを対話のためのツールとして活用し、さらなる取り組みを進めていくために。
重要なのは、2年目です。
どこまで取り組みが進んだのか、進んでないのか。
ANAの本気度が試されます。
同時に、大きく問われているのはステークホルダー側、
特に日本の市民社会側のあり方ではないでしょうか。
ANAの人権報告書には、外部のステークホルダーとの対話の様子が多く出てきます。
しかし残念なことに、
その中に日本のNGOや組織の名前はほとんど出てきません。
(表に出ていないだけで、関わっている団体はもちろんありますが)
企業の社会的な責任を果たすための取り組みを促進する上で、
社会が有効なチェック機能を果たすことは極めて重要です。
英国の現代奴隷法をはじめ、法整備の枠組みも
そうした点を組み込んで設計されるようになりつつあります。
ただ批判するだけでなく、取り組みを進めようとする企業に対し
日本の市民社会はどのように向き合っていくのか。
そんな大きな問いが投げかけられているように思います。