IBMにみる社員のボランティア推進のポイント

2018 / 5 / 3 | カテゴリー: | 執筆者:野澤 健 Takeshi Nozawa

Trail Repair Volunteers 33
photo by Mount Rainier National Park

内向きになりがちな社員の目をもっと社外に向けたい。
社会貢献活動への社員参画を促したい。

そのために、企業が社員に対してボランティア活動を推奨することがあります。
しかしできるだけ多くの社員の参加を促すためには、ただ呼びかけるだけでは不十分。

参加を広げるための具体的な施策として、
たとえばボランティアによる休暇申請を認める
ボランティア休暇制度の整備があります。

これを有給として申請可能にする方法もあり、
たとえばセールスフォース・ドットコムは
7日間の有給ボランティア休暇を提供しています。

一体感を出すためのアプローチとしては、
全社で一斉に取組むボランティアデーの設置があります。

シティグループは毎年グローバル・コミュニティ・デーを開催し、
12年目となる前回は世界の500都市で社員の家族も含め10万人が参加しました。

その他にも、ボランティア活動の登録制度や表彰制度の整備、
活動資金や物資の提供といった方法も考えられます。

こうした施策を行う上で、私が重要だと考えるのが、
なぜやるのか、なにをやるのかの、会社と社員の間の明確な線引き。

その点で参考になるのが、IBMです。
ボランティア活動参加同意書には、以下のような内容が明記されています。

・ボランティアはあくまでも自発的な活動であり、業務の一環ではない
・活動が個人的なものであり、IBMを代表したものではないことを活動先に知らせること
・IBMの代表として振る舞ったり、IBMの責任が生じる約束が可能かのような表現はしないこと
・活動中に会社の保険は適用されない

また、ボランティアに関する質問と回答ページには、
・ボランティア活動に対して報酬は支払わない、有給制度もない
・自発的な活動であることが前提であり、当然交通費も支払われない
と書かれています。

そこでは、ボランティアはあくまで個人としての活動であるという考え方が貫かれています。
一方で会社としては、それ以外の部分で徹底的なサポートを行っています。

IBM Volunteersという、すべての社員、契約社員、ならびに退職者を対象とした
ボランティア活動推進のイニシアチブを立ち上げたのは2003年。

オンラインのコミュニティでは、ボランティアに関する情報だけでなく、
活動で利用できる教材やツールが何十種類も用意されています。
全体でのボランティアの目標が設定され、
参加者は活動の実績を記録できるようになっています。
また一定の基準をクリアすると、支援先が金銭的・技術的な支援が得られる
助成金の申請もできるようになります。

IBMはこのコミュニティを通じてボランティア活動への参加を促しています。
上記の同意書はそのためのもので、社員に対して
活動した時間数や写真素材を利用する許諾も求めています。

こうした支援に加えて、より重要なことは、
ボランティアがしやすい職場環境をつくること。
柔軟な勤務形態の導入、さらには上司の理解は活動する上でかなり高いハードルです。
(IBMの質問と回答でも、会社として行っていることとして、その点を強調しています)

SDGsの実践、人生100年時代における生きがいや能力向上、
人口減少社会における公共維持など、
企業にとっても社員にとっても社会にとっても、
ボランティアを行うことの重要性やそこから得られるものは大きくなっています。

「ボランティア」の定義は、自発的な意思に基づき、
公益のために金銭的な見返りを求めずに行う活動のこと。
組織による直接・間接の強制的なボランティアの推奨は、
社員のネガティブな行動を引き起こすという研究もあります。

企業には、なぜボランティアを推奨するかの理由と目的を明確にした上で、
ボランティアの本質を尊重し、戦略的に仕組みを作っていくことが求められます。

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