Sustainability Frontline
英国と米国におけるソーシャルインパクトボンドのいま
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ESG投資が拡大を続けるなか、特定の課題を解決するための活動に投資する
「インパクト投資」という手法が注目されるようになっています。
官民連携型インパクト投資であるSIB(ソーシャルインパクトボンド)は
「社会的課題の解決」と「財政コストの削減」を同時にめざし、
民間投資家のお金で社会的事業を実施し、事前に合意した成果が達成された場合
行政が投資家にサービス実施コストと利子を支払う契約をさします。
(仕組みはこちらから)
日本でのSIB導入は、
2015年にG8社会的インパクト投資タスクフォース国内委員会が発表した提言書の7つの提言にも含まれ、これから休眠預金を活用したSIBの開始が予想されますが
まだ寄付に頼った形のプログラムしか実施されていません。
私は研究機関で、2016年からSIBを主とした社会的投資やインパクト評価に関する海外調査を行っています。
投資家や研究者、政府関係者やNPOを対象に行った英国・米国での現地調査から見えてきたSIBの現状と課題をまとめました。
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●SIBに関心を持つ投資家
当初は、SIBを債券として投資家に売却することを狙う大手証券会社もありましたが
SIBは投資家が元本を失うリスクも高いことから、現在の主な投資家は財団など金銭リターンより社会的リターンを重視する投資家です。
(米国や豪州では、財団が民間投資家に対して資本保全を行う例もある)
●SIBの目的
財政コストの削減が優先されると、コスト削減につながりやすいプログラムばかりが増える可能性があります。
たとえば現在社会的サービスを受けられていない人に対して支援を行うと財政支出が増える可能性があり、財政コスト削減の視点から考えると魅力的なプログラムとは言えません。
そこで最近では英国・米国ともに
「SIBにより財政コストが下がることもあるが、
コスト削減よりも同じコストでより社会的インパクトのある政策を行うことがSIBの目的であるべき」
という意見が増えています。
英国では、財政コスト削減に結びつかなくても
受益者に重要な変化をもたらす指標が認められるケースも増えてきています。
●評価・分析
SIBを含む政府と民間の契約(PFS:Pay for Successと呼ばれる)では
本来アウトカム(受益者または社会の変化)が出ないと支払いは行われないはずですが、
米国のPFSでは、政府が期待するアウトカムは提示されるもののお金は前払いで、
プログラムの実施回数など”アウトプット”さえ提出できればとよいものが主だそうです。
アウトカムのデータ計測・管理はそれだけ手間がかかり、
第三者組織の支援なしでNPOがそれを行うのは難しいという現状があります。
また、評価方法について
英国では、過去のデータとプログラム実施後のデータを比較分析し、
米国では、サービスを受けるグループとそうでないグループを比較するというより厳密な評価方法が主流です。
しかし、後者の評価方法だとサービスを受けられない人が発生するという倫理的な問題もあります。
●アウトカム指標の標準化
英国では政府がSIBの拡大を加速化するために、成果を測る指標を標準化し
「レートカード」という成果ごとにいくらの支払いを行うかの価格表を作りました。
Social finance レートカードの例:成果ごとに政府が投資家に支払う金額が一覧になっている
しかし、これによって政府の支払い金額が高い指標にプログラムが集中してしまうリスクがあるため、プログラムごとに受益者のことを考えた指標を設定すべきという意見も多くあります。
また、プログラムの実施によって予想外の好影響が社会にもたらされることがありますが、
SIBの場合最初に設定した指標をクリアしないと支払いは行われないため、
多様な指標を設定しておく必要があります。
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SIBは英国・米国以外にも広がっていますが
課題も多く、今後他の投資手法に代わられていくのか、
それとも実験を繰り返しながら公共サービスを充実させるための有効な資金源となり得るのか
調査研究を続けていきます。