Sustainability Frontline
企業の人権ベンチマーク結果公表 日本企業の評価は?
世界規模で企業の人権に関する方針や活動を
格付けする初のイニシアチブ「企業の人権ベンチマーク(CHRB)」が
パイロット版調査結果をリリースしました。
調査項目や評価方法についてはこちらから。
今回は、農作物・アパレル・採掘業の98社が対象で
日本からは、Fast Retailingとイオンの2社が評価対象に入っていました。
スコアの全体平均は、28.7%と低めで、
各項目のスコアは以下の通りです。
左から、「A.ガバナンス・方針」「B.デューデリジェンス」「C.救済・苦情処理メカニズム」「D.取り組み状況」「E.深刻な申し立てへの対応」「F.透明性」の平均スコア
全体の評価は以下の表の通りで、
60%以上の評価を得たのは、BHP Billiton(採掘業)、Marks & Spencer Group(農作物・アパレル)、Rio Tinto(採掘業)、
50%以上が、Nestle(農作物)、Adidas(アパレル)、Unilever(農作物)です。
日本企業のイオンは20-29%、Fast Retailingは10-19%のグループに位置しています。
主な調査結果と考察は以下の通り。(P12-13)
・方針づくりや初期段階のデューデリジェンスに注力する企業が多いが、
リスクの防止、システムの有効性の確認、是正措置の実行など具体的な行動が伴わない企業が多い
・潜在的に人権リスクがあるステークホルダーとのエンゲージメントが全体的に不足
・スコアが29%以下の企業は、先進企業にならって取り組みを加速しなければ
投資家や消費者、優秀な人材からの信頼を失うリスクが高い
詳細の調査結果を見ていくと
まず、セクターごとに
スコアの高いグループと低いグループが整理されています。
写真:農業分野の例。上の行が先進企業、下の行が0点または人権に関する深刻な申し立てを受けた企業
各企業の評価詳細は開示されていませんが
A〜Fの項目ごとに
各指標の概況と、セクターごとのスコア分布状況、先進事例が確認できます。
各項目の概要としては
「A.ガバナンス・方針」(P24-25)
・2/3以上の企業が人権に関する方針を持ち、1/3以上がILO中核的労働基準に基づいたコミットを出している
・約30%の企業が、役員が方針を承認していることを明確にしている
「B.デューデリジェンス」(P26-27)
・1/3以上の企業が、リスクマネジメントシステムに人権の要素をいれている
・1/3以上の企業が、監視や是正措置を実施するための仕組みをもつ
「C.救済・苦情処理メカニズム」(P28-29)
・2/3以上が、労働者向けの苦情処理メカニズムを持つが、地域社会向けの仕組みを持つ企業は1/3のみ
・90%がメカニズムづくりの段階でステークホルダーの意見を取り入れていない
・90%が、メカニズムがあっても、利用者に対して説明が十分でない
・80%が、問題が起こったときの対処方法を開示していない
「D.取り組み状況」(指標によって対象外のセクターもあり)(P30-37)
・生活賃金に関する目標を掲げているのはユニリーバのみ、生活賃金に関するサプライチェーン向けの方針は、8社が策定
・農業/アパレルの19社が児童労働と強制労働防止に関する評価を実施し、4社は児童労働がないことを明示
・農業/アパレルの13社がサプライヤー向けの児童労働防止の指針を持ち、15社が強制労働の指針をもつ
・22社が自社の負傷率、死亡率、損失日数を開示、57社がサプライチェーンにおける同様の情報を開示
・アパレルの9社が長時間労働に関するサプライヤー向けの指針をもつが、進捗を報告している企業は0
「E.深刻な申し立てへの対応」(P38-40)
・41社が2015-16年の間に人権に関する深刻な申し立てを受けた
・一番多かったのが、サプライチェーンでの長時間労働と労働組合に関する問題(全体の17%)、次に多かったのが児童労働と強制労働
・申し立てに対して、詳細な説明を行ったのは21%、なんらかの回答を行ったのが45%
「F.透明性」(P41)
・全体的なスコアが最も高かった項目 (平均スコア30%)。多くの企業が人権に関する透明性を確保しようとしていることが明らかになった
日本企業については
イオンは、アパレル・農業分野ともに
「D.実際の取り組み」と「C. 救済・苦情処理メカニズム」のスコアが0でした。
(その他の項目に関する評価の開示はなし)
Fast Retailingは、
「A.ガバナンス・方針」のスコアが0ですが、
サプライチェーンのマッピングと開示、(P31)
児童労働の防止や是正措置 (P32)
強制労働の防止や(P33)、女性の権利擁護(P36)などは評価されています。
人権ビジネス研究所の最高責任者は、
「CHRBは、主に公開情報を調査しているため
活動していても
開示情報がなければ評価できない。
不公平に感じる人もいるかもしれないが、
『ビジネスと人権に関する国連フレームワーク』でも
活動と開示の両方を求めているように
透明性の重要を強調するために、この調査方法をとっている」
とコメントしています。
CHRBでは、今後ベンチマーク対象企業を広げていく予定です。