Sustainability Frontline
英国現代奴隷法、日本企業の対応状況は?
Photo by Paul Arps
「奴隷」と聞くと、歴史上の出来事を思い浮かべる方も多いと思います。
しかし、いまの時代にも「人身売買」や「強制労働」など、
権利が認められずに労働力として搾取される「奴隷」は
世界に4500万人以上(*1)いるといわれています。
2015年3月に英国で制定された現代奴隷法では
こうした現代の奴隷制の根絶をめざし
「英国で事業を行う営利団体・企業」で
「年間の売上高が一定規模を超える企業」に対して
①当該年度に事業活動およびサプライチェーンにおいて
奴隷労働を防ぐためにとった措置の内容 または
②そのような対応をしていないこと
のいずれかを示すことを求めています。
①を選択する場合、
自社の事業のあらゆる部分で
奴隷労働と人身取引がないことを担保するために
以下の項目について毎年度報告することを求めています。
・組織の構造とサプライチェーン(Organisational structure and supply chains)
・方針(Organisational Policies)
・デューデリジェンス(Due Diligence)
・リスクの評価と管理(Assessing and Managing Risk)
・取り組みの成果測定指標(Performance Indicators)
・研修(Training)
2016年7月時点で
Business and Human Rights Resource Centreのリストによると
報告企業は380社あります。
そのうち日本企業は、以下11社のようです。
(リンク先は各社の声明ページ。リンクがない企業は上記リストからダウンロード可能なものもあり)
KYOCERA Document Solutions
Mitsubishi Motors
Mitsubishi Rayon Lucite international
Mizoho international
Misuho securities
NSG group
NTT data UK
NTT Europe
Pioneer
Sompo Japan Nipponkoa Insurance Company of Europe
Toyota tsusho metals
各社の報告内容を確認したところ
大体の企業は、項目に沿って報告を行おうとしているようですが、
内容にはばらつきが大きいようです。
たとえば、構造・分野・高リスク地域特定などの報告が求められる「サプライチェーン」の項目を見てみると
・Mitsubishi Rayon:原材料と製品を第三者から供給している点のみ明記
・NSG group:規模を開示
・NTT Europe:業種を開示
など報告内容がさまざまでした。
デューデリジェンスについては各社項目にはあげているものの、
NSGとNTT Europe以外は具体的なプロセスが見えにくい印象です。
以下の2項目は全体的に報告が不足しており、関連の開示は以下のみでした。
・リスクの評価と管理
-NTT Europe:リスク特定のみ
-SJNK EU:リスク管理フレームワークの存在のみ紹介
・取り組みの成果測定のための指標
-Mitsubishi Rayon:奴隷防止用の指標はないが、関連指標があることを明記(研修受講者、苦情数等)
「研修」の項目は、
・NTT Europe:必要に応じて実施
・SJNK EU:調達に関わる全従業員に実施
・Mizoho international:従業員ほか、請負業者、インターンやボランティアにも実施
など企業によっては「対象」について細かい開示を行っていますが
内容や実施状況は不明です。
また、参考までに英国企業の中から「Vodafone」と「Marks & Spencer(M&S)」の内容を確認したところ、
日本企業に不足している
・両社:リスク評価内容、研修の内容・実施状況
・M&S:高リスク地域やサプライチェーンの特定、成果測定指標
を含め、全体的な開示は日本企業よりも充実していました。
●M&S開示項目
・課題認識
・事業紹介、サプライチェーンの規模
・関連方針の紹介
・デューデリジェンス状況、監査の実施状況
・起こりうる強制労働の想定
・人権侵害リスクが高い地域やサプライチェーンの段階の特定
(リスクアセスメント評価結果へのリンクあり)
・関連研修の実施状況、内容、対象の従業員範囲
・今後の取り組み(各部署の責任者も開示)
・取り組みの成果測定指標
●Vodafone開示項目
・世界の強制労働についての基礎情報
・コミットする国際法や世界の原則
・関連の規制と方針
・リスク評価方法
・紛争鉱物に関する考え方へのリンク
・モニタリングとコンプライアンス
・研修(狙い、実施方法、対象、内容等)
・2015-2016年の取り組み進捗報告
・サプライヤーアンケートの結果を開示
また、Vodafone、M&Sともに
強制労働において、特に注目度の高い問題行為
(労働者が仕事を得るために料金を払うことや、雇用主が労働者の転職を妨げる等)
を禁止する方針がある点も強調していました。
英国奴隷法に対する動きは
英国での事業展開がない日本企業にとっても他人事ではありません。
2020年東京オリンピックに向けて、日本企業に関連する奴隷労働への注目が高まっていくと考えられるため
日本企業は、世界基準に沿った取り組みを行っていくことが
今後ますます重要になるでしょう。
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参照:
1: オーストラリア国際人権NGOウォーク・フリー財団調査Global Slavery Index 2016
求められる報告内容:”Transparency in Supply Chains etc. A practical guide”P.27〜P37
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/471996/Transparency_in_Supply_Chains_etc__A_practical_guide__final_.pdf