肉食から菜食へ—食生活へのシフトに向けた動き

2016 / 5 / 9 | カテゴリー: | 執筆者:Yurie Sato 佐藤百合枝

2050年までに世界人口が90億人に達すると予測されるなか
不足が懸念されるたんぱく源の生産。

家畜の餌に使う大豆の生産は森林破壊の最大の原因のひとつ
世界の温室効果ガス排出の20%近くが畜産業関連であり
現在の世界の食生活を地球が支え続けていくことはできません。

世界資源研究所は4月に
持続可能な食生活へのシフトの方法を提案するレポートを発表しました。

いままでの類似取り組みは
ベジタリアンになることを呼びかけるキャンペーンなど
消費者への教育が主でした。

しかしまだ多くの消費者が、食べ物の環境・社会影響よりも
味や価格を重視することや
そもそも購買行為は、理性や情報よりも
無意識な習慣に基づくことが多いことから、
過去の取り組みは効果が見られなかった点を指摘しています。

そこで同レポートでは、
効果が実証されている民間企業のマーケティング手法に基づいた
包括的な取り組みをフードチェーン全体で行うことを提唱しています。

主な提案は以下の4点。
スクリーンショット 2016-05-09 18.21.35
図:レポートP12
(以下右上から時計回り)
・肉の代替商品(大豆ミートなど)を肉売り場に置き、
味、外見、パッケージを動物由来のものに似せるなど、食生活のシフトをより自然にする
・消費行動に影響しやすい「健康」や「価格」をアピールする。
(植物由来のたんぱく質は動物由来のものより安いため、原料を植物由来に変えることで食品製造企業の利益向上にもつながる)
・商品を見かける回数が多いほど購買につながるため、サステナブルな食品の販売や印象的な広告を増やす。
・食生活は社会規範や文化的環境に左右されるため(一部の国では肉を食べることが豊かさの象徴であるなど)
教育だけでなく、どの食品が社会的に好ましいかのイメージを変えていくことが必要。

同レポートでは、政府に上記の仕組みづくりへの財政支援を呼びかけ
企業や政府に、動物由来のたんぱく質の商品削減に関する定量目標を設定することを提案しています。

これに沿った企業の動きを見てみると
今年2月に英NGOのForum for the Futureが、WWFや、小売大手のTargetやWaitrose、
菓子製造業のHershey’sなど6社とともに
プロテインチャレンジ 2040を発表しました。
このイニシアティブでは9億人が健康的で環境によいたんぱく質を手ごろな価格で入手できることを目指し、
さらなる団体や企業の参加を呼びかけています。

主な取り組みは以下で、各項目に2018年までの中期目標を設定しています。
・植物由来たんぱく源の消費を増やす:例)調理済み食品に植物性たんぱく質を使用する、企業のブランドの力を使って啓発を行う
・イノベーションにより、人間の食料にならない資源を飼料に転用
・フードチェーンで無駄になっている30%の食料を有効利用する
・在来植物からのたんぱく源摂取を増やす
・水産養殖を持続可能にする:例)浄水作用を持ち、魚の餌にもなる微生物を使用した養殖
・新しい肥料を使い土壌の健康を回復する:例)植物の害虫や干ばつへの耐性を高めるワカメなど

また、肉の代替たんぱく源として注目されているのが藻や昆虫。
材料の一部にコオロギの粉を使用したプロテインバーを生産するExoはKickstarterで資金調達を行なっており、
2013年から2016年3月までで6億円以上を集めていることが注目されています。

最後に、国単位の動きとして興味深いのが
デンマーク政府の肉への課税検討です。
デンマークの倫理委員会は、パリ協定の2度目標を達成するには消費者の倫理的行動に頼るだけでは不十分で
国としての政策が必要だとコメントしています。

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