社会課題解決へのイノベーションを目指して 〜英国で進化するソーシャルインパクトボンド(SIB)〜

2015 / 4 / 2 | カテゴリー: | 執筆者:Yurie Sato 佐藤百合枝


By G8 Taskforce on Social Impact Investment

社会的活動の成果の定量化(SROI:社会的投資収益率)への関心が高まる中、
いま世界でソーシャルインパクトボンド(SIB)という
新しい投資の仕組みが注目されています。

先日、日本と英国の社会的投資の動向や事例を紹介するフォーラムに参加し、
SIBの仕組みや課題についても学んできました。

通常、行政では、すでに起こっている社会問題を優先して政策を行いますが
多くの問題は、予防措置や早期介入を行うことで
結果的に解決に必要なコスト(税金)を大幅に減らすことができるといいます。

SIBはそこに着目し、ある社会課題に対して、
予防的プログラムの実施によって使わずに済んだ行政コストを
そのプロジェクトに資金提供した投資家へのリターンとして支払うという仕組み。

SIB
Photo by CSG justice center

SIBの基本的な流れとしては、

行政が対象となるプロジェクトを選び、その実施によって削減された政府予算のうち何割をリターンとするかについて、中間支援組織と契約を結ぶ。

中間支援組織は、投資家を募集し、プロジェクトを行うサービス提供者(社会的企業やNPOなどさまざまな主体が対象ですが、本文では以下NPOとします)を選出。

NPOが受益者に対してプロジェクトを行い、第三者評価機関が成果を算出。(サービスを実施した結果として定量目標(例えば犯罪件数や失業者の減少)が達成できたかどうかによって、行政が支出すべき経費がいくら削減されたのか?をもとに算出)

政府支出の予算削減の度合いに応じて、リターンがあれば投資家には配当、NPOには成功報酬が支払われる。

関係者それぞれへの利点を整理すると・・・

・投資家は、社会貢献ができる+成果目標に達すれば財務的リターンがある。
・NPOは、寄付や助成金ではなく、投資という形で安定した資金を調達できる。
・Payment by Results(PbR)と呼ばれる成果主義が導入されていて、プロジェクトが失敗した際のリスクは投資家に移転されるため、行政府と納税者は結果的に効果のない行政サービスへの投資(税金の無駄遣い)から開放される。

このように投資家・行政・NPOの「トリプル・ウイン」が期待されるSIBですが
まだ新しい取り組みであるため課題も多くあります。

今回、英国の政策担当者、評価組織、実践者が課題として共有していたのが

・公的サービスの手が届かない人へ援助をするのがNPOの重要な役割であるのに、SIBでは目にみえる結果が求められるため、NPOは、本当に支援を必要としている人たちではなく、成果が出やすい層への支援を優先してしまう恐れがある。
・事業に対して細かいモニタリング、データが要求されるため、キャパシティのない小さなNPOには参加が難しい。
・社会的な問題を数値化しようとすると、「人の命」に値段をつける必要もでてくる。英国では、これについて倫理的な問題が議論されることも。
・全てを数字で評価すると、社会的活動の人間的な側面が埋もれてしまう。
・介入が早ければ早いほど効果は期待できるが、対象プロジェクトに対してSIBモデルが有効かどうかを判断するのには時間がかかる。(2010年に開始された最初のSIB事例では、判断に6年かかる見込み)

また、英国におけるSIBの近年の動向として紹介されていたのが

・投資家がNPOへ、資金投資だけでなく、モニタリングやデータ蓄積の段階でプロボノ支援する事例が見られているため、技術援助も考慮したリターンの仕組み作りも考えられている。
・ある社会問題で、SIBのプロジェクトによって一部地域での成果が証明されたため、政府がそこからプロジェクトを引き取り、全国的な政策につながった例も。
・SIBが始まったばかりの頃は、プロジェクトの計画も政府主体で行われることが基本だったが、最近では問題を一番熟知しているNPOがプロジェクト計画や成果目標を作り、政府はそれを選ぶだけというNPO主体のプロジェクトも現れている。
・ホームレス支援をするBig IssueやSt Mungoなど大型NPOが、プロジェクトへのコミットメントを見せるために、投資にも参加して、プロジェクトを成功させる例も出てきた。

SIBの評価を行う調査機関OPMによると
2014年の時点で世界で26件のSIBプロジェクトが認識されており、
さらに100件以上が開発中で、国や地域によって多様な形で進化しているそうです。

英国では、上記のように社会問題解決へのイノベーションを目指し
さまざまな取り組みが試される一方、
米国ではリスクを避ける傾向にあり、
元本を保証した、より債権に近い形が主流になってきているといいます。
プロジェクト例の紹介はこちら

日本では、日本財団が「中間支援組織」
SROIネットワークジャパンが「評価機関」
地方自治体が「サービス提供者」になり、
2015年にモデルケースを発表予定のようです。

また、国際開発の文脈でも注目されており、
公的サービスへの予算が特に不足する途上国で民間資金を集める手段として、
いま世界で Development Impact Bond (DIB)モデルの開発が進んでいます。

国や地域、またプロジェクトに関わる主体によって
多様なイノベーションが期待されるSIB。
これから国内外でどのように進化していくのかウォッチしていきたいと思います。

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