【困難なとき支え合える社会へ】「夜のユースセンター」に見る、居場所と数珠つなぎの支援の大切さ

2026 / 7 / 1 | カテゴリ: | 執筆者:宮原 桃子 Momoko Miyahara

物価高騰や雇用不安、人間関係の希薄化などを背景に、生きることに困難を抱える人が増えており、誰もがある日突然「支えられる側」になり得ます。同時にちょっとした声がけや手助けによって、誰もが「支える側」にもなれる可能性があります。私たちがお互い支え合って生きていくには、どうすればよいのでしょうか。

本連載では、ホームレス状態にある人々や、様々な事情により社会的孤立に直面している若者など困難を抱える人々を支える現場を訪ね、その取り組みを伝えます。また、誰もが安心して「助けて」と言え、お互いに支え合える社会をつくるためのヒントを探ります。

第1回「多摩少年院を訪ねて―― 子ども・若者を支える社会のあり方を考える」では、地域・コミュニティにおけるつながりや居場所の重要性が見えてきました。そこで、第2回は認定NPO法人「育て上げネット」が運営する若者向けの居場所「夜のユースセンター」を訪ね、スタッフの方や利用する若者たちに話を伺いました。


執筆:宮原桃子

エコネットワークス(ENW)では、主に企業のサステナビリティ推進に関する社内外コミュニケーションの支援に携わる。「シチズンシップの醸成」「多様性の尊重」「支え合い・共助」などに関心を持ち、子どもの権利に関する記事なども手掛ける。


夜のユースセンターとは?

夜のユースセンター入口

土曜の夜、JR立川駅から繁華街を抜けてしばらく歩くと、10代から30代くらいの若者たちでにぎわっている建物が見えてきました。認定NPO法人「育て上げネット」が運営する居場所「夜のユースセンター」です。

育て上げネットは「若者と社会をつなぐ」というミッションのもと、不登校やひきこもり、ニートなど様々な形で社会から孤立した状態にある若者とその保護者のサポートなどに取り組んでいます。若者に対する就労基礎訓練プログラム「ジョブトレ」や家族相談プログラム「結」、子ども・中高生を対象に学習や体験機会を提供する「まなびタス」、学校への教育プログラムの提供、少年院や出院後の子どもたちへの支援など、様々なアプローチで活動が行われています。

壁の向こうは、食事やおしゃべり、ゲームなどを楽しむ若者であふれていた

「夜のユースセンター」は、若者が自由に利用でき、緩やかなつながりを感じられる居場所として、毎週土曜の18~21時に開放されています。センターに入ると、みんなでご飯を食べたりおしゃべりしたりするリビングのような部屋、ゲームに集中したい若者が集まる部屋、バンドの練習をする部屋など様々なスペースがあり、利用者は思い思いに過ごします。1日60~70人もの利用があるそうで、どの部屋も若者で混み合い、活気がありながらもそれぞれが自分のペースで過ごせる雰囲気がありました。

家庭にも学校にも居場所がない若者たちに、安心していられる場を

センターでは夕飯が無償で提供される。この日のメニューはビーフシチュー

夜のユースセンターの始まりは2023年。当時ジョブトレに参加していた若者たちが、夕方になっても帰りたくなさそうにしていたことから、ジョブトレの現場リーダーである阿部渉さんが数名の規模でこじんまりと始めたそうです。コロナ禍を経て人のつながりが希薄になっていた時期であり、家庭や学校などで居場所がない若者たちがトー横やグリ下*などの繁華街に流れるという社会問題が浮かび上がっていた頃でした。特に夜の時間帯は寂しさなどで不安定になる若者も多く、社会全体で夜の居場所に対するニーズがあると感じていたため、阿部さんが「まずはやってみよう」と立ち上げました。

*居場所のない若者たちが集まる、東京・歌舞伎町の「新宿東宝ビル」周辺の広場や路地(トー横)、大阪・道頓堀のグリコ看板付近(グリ下)を指す。

学校など連携機関に提供している紹介カード

オープン当初は、ジョブトレ利用者やOB・OGが対象でしたが、現在は困りごとを抱える若者に広く開かれています。特に支援を必要としているかもしれない若者とつながれるよう、通信制や定時制高校、若者支援を行う行政・機関などと連携し、そこからの紹介で参加できる仕組みになっています。

「支援する場所ではない」の真意は? 若者との信頼関係から始まる

夜のユースセンターを発案し、立ち上げた阿部渉さん

阿部さんは「若者たちには、夜のユースセンターは“支援する場所ではない”とあえて伝えているんです」と語ります。「まずはここが若者たちの居場所となることが大切。その中で信頼関係を築ければ、おのずとたくさんの悩みや相談が出てきて、気が付いたら支援につながっている」というのです。

「ぼくは“初めまして”を大事にしています。2回目も会ってもいいかな・来てもいいかなと思ってもらえるよう、相手の話を聞いたり、たわいもない話をしたりしています。時にはゲームの話だけで終わることもあります。支援者というよりは“変わったおじさん”くらいの存在として、適当さやだらしなさ、弱さもオープンにするようにしていますね」

実は阿部さん自身、両親の離婚そして母親の再婚といった背景から中学校で不登校になり、高校卒業後は様々な不安から約2年間ひきこもりを経験しました。その後育て上げネットの存在を知り、最初はジョブトレに参加。気づけば、利用者からスタッフになっていたそうです。阿部さんはそうした自身の経験があるからこそ、困難を抱える若者を理解し受け止め、一人ひとりが求める距離感を見極めながら、深い信頼関係を築いているように感じました。まずはシンプルに安心して信頼できる拠り所となることから始まる。実際、阿部さんの周りには常に若者が集まって「あべべ」「あべちゃん」と話しかけていました。

こうした中で若者たちの悩みや困難、やってみたいことが浮かび上がったとき、一人ひとりに合った情報や選択肢を並べながら、少しずつ背中を押していく。そんな阿部さんの姿から、支援ありきではなく、まず一人ひとりを受け止め・受け入れる居場所のあり方が感じられました。

「話を聞いてくれる」「ゆるい」「誰でも受け入れてくれる」 若者たちはなぜここに集うのか

話を聞かせてくれた若者たちが、中央の阿部さんを囲む

利用者の若者たちは、夜のユースセンターをどのように捉えているのでしょうか。3人の方にお話を伺いました。

Xさん(30代):
16歳から19年間ひきこもりを経験したXさんは、今年からジョブトレに参加し、畑仕事やマンションの掃除、スポーツ大会の設営など様々な体験をしています。ひきこもりのきっかけは、周りとのコミュニケーションがうまくいかず不登校になったことでした。数年前に発達障害ではないかと思いクリニックを受診したことを機に、市役所のカウンセラーや育て上げネットにつながったそうです。

「夜のユースセンターは意外にゆるく、スタッフが優しくていい人しかいないことにびっくりしました。自分よりも若い利用者が多いけれど、お互い年齢に関係なく付き合える雰囲気が気に入っています」と活き活きと話すXさん。ジョブトレや夜のユースセンターでの経験を通じて、対人恐怖があまりなくなったと言います。「以前は、ポケモンGOといった自分の趣味も周りからどう思われるか不安で隠したりしていましたが、今は自分を出せるようになりました。アルバイトもやってみようと思っているところです」。コミュニケーション力をもっと改善したいという自身の課題にしっかりと向き合いながら、前に進んでいる姿が印象的でした。

Yさん(10代):
躁状態とうつ状態を定期的に繰り返すというYさんは、中学の3年間不登校を経験しました。高3のときに、ジョブトレのイベントを通じて夜のユースセンターの存在を知ったそうです。初対面の人と話すのは苦手でしたが、スタッフや他の利用者たちと話す中で少しずつ輪に入ることができ、今では「週1回みんなに会えるのが楽しみ」とのこと。阿部さんが自身の経験をオープンに話してくれたことで大人の苦労や弱さを知り、自分自身とリンクしたというYさん。取材当日は「阿部ちゃんと話さないとどうにかなる!」と必死の思いで夜のユースセンターに来ていました。ひとり親家庭で育ち、話す相手が母親だけだと行き詰まりを感じると語り、「夜のユースセンターは話をしたい場所。初めて人前で泣いたのもここ」だったそうです。

Yさんは社会福祉士に興味があり、大学に行ってみたいと思ったときに、阿部さんに相談し、学校の推薦書を得て進学できました。ジョブトレを通じて保育園や多世代型居場所でのボランティアも経験し、「知らなかったことを知れて、たくさん経験ができて嬉しい」と語りながら、今将来を模索しています。

Zさん(10代):
通信制高校に通うZさんは、育て上げネットの学習・経験支援「まなびタス」のサマーキャンプに参加したことがきっかけで、夜のユースセンターにも通うようになりました。「ここのいいところは、ゆるいこと。一定のルールはあるけれど、柔軟性があって一人ひとりに合わせて対応してくれます。静かな子もいれば、話したい子もいて、その中であべべ(阿部さん)は一人ひとりに合わせて言葉を選びながら、誰とでもいい距離感で話してくれて本当にすごいと思います」とのこと。Zさんにとって夜のユースセンターは「いろいろな話ができて、誰でも受け入れてくれる居心地のいい場所」だそうです。

「やりたいことをやらせてくれる」のも魅力だと語り、Zさんの発案で施設内で様々な屋台を出すお祭りを開催したり、韓国に行ってみたいという夢が「初めての海外旅行体験」という夜のユースセンターの企画として実現したりと、様々な経験ができているそうです。まるでスタッフのように夜のユースセンターの魅力を紹介してくれるZさんが印象的でした。

浮かび上がってきた居場所の役割と価値

部屋には思い思いに過ごせるテーブルやゲーム機器がたくさん用意されている

お話を伺った3人が共通して、夜のユースセンターの魅力は「とにかく話を聞いてくれること」「ゆるいところ」と語るのを聞きながら、「自分を見ていてほしい」「ありのまま受け止めてほしい」という心の声が聞こえたように感じました。裏を返せば、家庭や学校、コミュニティの中ではそれが難しいケースが多くあるということでもあります。

これに対し、スタッフの皆さんが一人ひとりに合わせて対話をし、否定せずやりたいことをやってもいい環境をつくり、周りの人たちとつながって様々な考えや経験ができる機会を提供しています。改めて、居場所とは、次のような役割や価値が求められる場所だと感じました。

・自分を見ていてくれる、気にかけてくれる場所
・どんな自分を出してもいい・出せる場所
・様々な人や社会とつながれる場所

「自立」とは一人で生きることじゃない 自分軸 × 様々なつながり

常連の利用者も多く、至るところで和気あいあいとした会話が聞こえる

居場所そのものに意義や価値がある一方で、その先はどこにつながっていくのでしょうか。阿部さんに「若者がこの場所を必要としなくなり、卒業していくことがゴールですか?」と尋ねると、印象に残る答えが返ってきました。「単純にここを卒業するということではなくて、何らかの支援やつながりを得た状態で自分らしく生きていければいいですよね」と。

仕事などの生きる術を見つけながら、自分だけでも夜のユースセンターだけでもなく、様々なつながりを持ちながら進んでいく。私の心に浮かんだのは、脳性まひ当事者で東京大学先端科学技術研究センター教授の熊谷晋一郎氏による「自立とは依存先を増やすこと」という言葉でした(参考記事)。夜のユースセンターは、頼ってみることや人・社会とのつながりをたくさん体感できる場であるからこそ、社会に一歩踏み出し自立していく上で欠かせない場所だと改めて感じます。

入口と出口をつなぐ連携 数珠つなぎの支援の大切さ

「若者たちが自分でできることが増えて、変化していく姿を見ると嬉しい」と語る阿部さん

社会的な孤立や困難は突如として現れるものというより、子ども時代から積み重なる家庭や学校などでの経験や関係性の中で、徐々に深刻化していくケースが多くあります。困難を抱える子どもや保護者などが追い詰められる前に、就学前・小学校・その先と様々な段階で異なる支援が必要だと感じます。

育て上げネットでは「早い段階からの支援」を目指して、学校や行政、企業など様々な組織とパートナーシップを広げながら、困難を抱える子ども・若者とつながるための入口をつくっています。小中高生向けの学習・体験支援「まなびタス」を自主事業として運営するとともに、様々な学校と連携して出張授業やボランティア・就労体験支援プログラムを行う中で、「困難を抱える子どもたちやその状況が見えてくる」と阿部さんは言います。様々な自治体と連携して、若者をサポートするセンターも運営しています。

そして、夜のユースセンターやジョブトレなどの先にある「出口」も重要です。育て上げネットでは、多くの企業とパートナーシップを構築し、寄付などの資金面だけでなく、キャリア教育プログラムの開発や職業体験の実施、就労などの側面で連携しています。阿部さんは「子ども・若者をフォローするには長い年月がかかります。様々な組織と共に、一緒にその子を見守る・育てる“風土”をつくっていきたい」と語りました。

夜のユースセンターには、多様なつながりの中で自分らしく生きることを取り戻す若者たちの姿と、学校・行政・企業・地域コミュニティなどとの網の目のように広がる支援ネットワークがありました。地域や社会で、バトンをつなぐように「数珠つなぎ」で子ども・若者・親子を支えていくような仕組みが、困難なときに支え合いながら前に進める社会につながっていくと感じます。


次回は、「ひとりにしない」支援を掲げ、生活困窮者や社会からの孤立状態にある人々の生活再建を支援する認定NPO法人「抱樸(ほうぼく)」の活動を見学したレポートをお届けします。

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