ENW Lab. ENWラボ
Our Stories:個の「関心」や「想い」と組織ニーズの両軸であるべき姿を探る
従来 の「会社と従業員」というカタチにとらわれない考え方や仕組みで、「個が輝き、チームが輝く」組織づくりを目指すエコネットワークス(以下、ENW)。その特長の一つが、働く人のライフステージやスタイル、関心を軸に働き方や仕事内容を提案し、共に考え、決めている点です。約10年前にフリーランスの翻訳者としてENWと関わり始め、現在は雇用パートナー※として働く山本 香 さんは、ENWとどのように歩んできたのか。Language Service Officerの二口 芳彗子 さんと共に振り返ります。
※雇用パートナー:雇用契約者。「ENWパートナー」「パートナー」という場合は、雇用契約者と業務委託契約者の両方を指す
そのとき何を最も大切にするか 働く人の決断を尊重
―自動車のマニュアル制作会社で経験を積んだ後、最初はフリーランスの翻訳者・翻訳コーディネータとしてENWと仕事をするようになったと聞きました。フリーランスという働き方を選んだ理由を教えてください。
山本:「いつかは独立したい」という想いは、翻訳者として働き始めた当初からありました。前職で出会ったフリーランスの通訳者・翻訳者の方々が、自分で自由に案件や働き方を選択しながら歩んでいる姿をたくましく感じ、その想いがより一層強まりました。また、結婚や出産を視野に入れたときに、子どもとの時間も大切にしながら、自分の好きなことを軸にキャリアを積んでいきたいと考えていたのです。独立して3年後に出産し、その後1~2年は月5時間程度に稼働時間を抑えながら働いていました。この時期に関心がより高い領域に挑戦してみようと、環境・エネルギー関連の翻訳講座を受講したのがENWとの出会いです。その講座の講師をされていたのが二口さんで、2015年にトライアルを受けた後、最初はボリュームが小さい翻訳案件からご一緒しました。
―そこから徐々に、ENWとの関わりを増やしていったのでしょうか。
山本:転機となったのが、約1年後に担当したサステナビリティレポートの制作です。およそ半年間にわたる長期プロジェクトであり、他のENWパートナーと共に英文制作のプロジェクトマネジャー(以下、PM)を務めました。
二口:山本さんは、文法上の指摘だけでなく「ここは違う表現にした方が良いのではないか」と気づくポイントが的確で、翻訳者さんとのコミュニケーションの取り方もすばらしい方です。ENWでは翻訳者さんとディスカッションした上でベストな訳を決めていくのですが、山本さんからは元の訳文を尊重しつつも真摯に訳を練ろうとする姿勢が常に感じられます。そのため、翻訳者さんも喜んで別の案を提案してくれるのですね。チームをまとめる力が長けていると思い、PMをお願いしました。

二口 芳彗子さん
山本:そのように評価いただけたことが嬉しく、精一杯努めました。ただ、同案件はボリュームが大きくスケジュールも見えづらかったため、日々追われているような感覚があったのを今でも覚えています。当時、5歳だった娘を9~17時で保育園に預けていたのですが、保育時間中に仕事が終わらず、毎日のように延長をお願いしていました。そんな日々を送っていたある日、東京に泊まりで出張に行くことになったのです。娘は電話では「頑張ってね」と応援してくれていたのですが、帰宅後、玄関で私を迎えるやいなや「遠くにいかないで~!」と大泣き。目の前の業務に必死で、子どもに十分目を向けられていなかったことに気づいた瞬間でした。精神的にも物理的にも余裕がほしいという理由で、このプロジェクトが終わった後、二口さんに自身の働き方について相談しました。
二口:山本さんから相談を受けて、時期尚早だったと反省しました。お子さんが成長されて、ご自分で大丈夫と思えるときがきたら、もう一度一緒に考えましょうと。何を最も大切にするかは一人ひとり違いますし、それも変わっていくので、ENWでは、その方のそのときの判断をまず最優先します。ですから、相談してくださったこと、ありがたかったですね。どのような業務・役割をお願いするかを決める上では、その方のスキルや適性だけでなく、挑戦する機会をつくることも大事です。その際は、組織としてバックアップする体制を同時につくっていかなければ、とこの出来事を機により強く思うようになりました。
山本:以降、何年かはボリュームが小さい短期間のプロジェクトを中心に、仕事量を抑えながらENWと仕事をしてきました。PMとしての仕事は極力減らし、翻訳者や英訳プロジェクトのチェッカーとしてチームに入るなど精神的にも余裕を持てるような働き方をし、子育てとのバランスを保つことを優先しました。
ライフステージの変化にあわせ、ワークスタイルを設計

山本 香さん
―働き方に対する葛藤は、誰しもがどこかのタイミングで直面するものですよね。その状況を変えようと踏み出すことができない人も多い中、ご自身の気持ちとしっかり向き合い、声を上げたのは勇気ある一歩だったと思います。
山本:いま振り返るとそう思える面もありますが、当時は後ろ向きな気持ちの方が大きかったです。大型案件を一緒に担当したPMが、とても丁寧で誠実な働き方をする人で、「私もこんな風になりたい!」と感銘を受けたほどでした。彼女にも、娘と同じくらいの年齢のお子さんがいたので、なおさらそう感じたのかもしれません。そんな想いとは裏腹にうまくできなかった自分自身に落ち込み、大型プロジェクトのマネジメント業務からはしばらく離れてみることにしました。その間も、言語チームにはチェッカーとして携わり続けており、結果としてそれが悶々とした気持ちを打破するきっかけになりました。当時、チームに加わったばかりのパートナーがとても勉強熱心で、プロジェクトをスムーズに回していくために、あらゆる努力をしていました。そんな姿を間近で見てきたことで、「私もまたチャレンジしてみたい」という気持ちが自然と芽生えてきたのです。
ここ1~2年はボリュームの大きな案件や新規プロジェクトのPMにも挑戦しているほか、一つのプロジェクトに対する心持ちや取り組み方にも変化が生まれています。例えば、原文を深く読み込んで背景などを理解した上で、本質的な部分をより明確に伝えられるような訳にする。場合によっては、原文にも意見してみるなど、一歩踏み込んだ提案や対話を通じて、ご一緒している企業さまやご担当者に働きかけることを意識しています。
二口:対話を通じて、一緒により良いものを目指す、という点はENWのワークポリシー の一つである「Teamwork for the best 依頼者ともチームとなり、最良の成果物をつくります」 と重なる部分がありますね。
―山本さんは昨年、ENWの雇用パートナーになりましたが、ご自身のそうした変化と関係しているのでしょうか。
山本:言語以外の事業チームと仕事をする機会も増え、ENWともっと深く関わってみたいと思い始めた矢先に、二口さんから雇用パートナーとして働くことをご提案いただきました。実は数年前にも雇用パートナーとして働いてみないかとお声掛けいただいたのですが、PMの役割を担うプロジェクトを絞っていた時期だったので、そのときはお断りしたのです。
二口:山本さんの様子を見ていて、機は熟したのでは、と思ったのです。また、クライアントの数も増え、言語事業に対するニーズも変化している中、私自身が事業全体の今後を一緒に考えてくれる仲間が必要と感じていました。

2024年のENWの集いで、ENWのこれまでの歩みについて語る二口さん(左端)
山本:雇用パートナーになるにあたり、「こんなことを一緒にやっていきたい」という話を二口さんがしてくれた中で、私が最も強い関心を抱いたのが機械翻訳への対応です。私自身、AIがこれだけ進化している中で従来のやり方に固執すべきではないと思う一方、一番面白みがある部分を機械にゆだねることに抵抗感があり、どのような方法がベストなのかまだ答えを出し切れていない状況です。同じように悩んだり、試行錯誤したりしている翻訳者も多いはずなので、ご一緒している方々の考えや想いにしっかり耳を傾けながら、組織としての方針を共につくりあげていきたいと強く思ったのです。
従来のあり方にとらわれない仕組みで、個や組織の力を最大化
―ご自身の関心や想いを大切にされた上での決断だったのですね。雇用パートナーになったことで、仕事内容や働き方に変化はありましたか。
山本:個人の関心を軸に仕事内容やキャリアを設計していくのが、ENWの特長の一つです。雇用形態が変わったことで仕事内容が大きく変わることはなく、これまで通り自分の関心のあるプロジェクトや役割を担っていくというスタンスで働いています。しいて言うならば、先ほどお話したように言語事業全体の方針を考えたり、ENWの集い(パートナー同士が対面で交流する場)やステークホルダーミーティングの企画・運営に携わったりするなど、組織の基盤づくりにより積極的に携わるようになりました。働く時間については、およそ月100時間をENWの仕事に充てています。個人の希望に合わせて働く時間(労働時間)を柔軟に決められる※のも、この組織の特長 です。私の場合、ENWの仕事とは別に、「ビジネスと人権」に関する翻訳なども行っているため、その時間を確保することや、私生活との両立を考えた上で労働時間を設定しました。「ビジネスと人権」の翻訳の仕事を通じて得た情報や知識は、ENWの仕事にもつながっており、インプットとアウトプットの好循環が生まれています。
※ENWでは、雇用パートナーを対象に、本人の希望や前年度のパフォーマンスを考慮した上で、月あたりの労働時間(下限を80時間とする)を年度ごとに設定する仕組みを導入している

2022年のENWの集いで仲間と食事をする山本さん(右から2番目)
―今後チャレンジしていきたいことなど、描いているキャリアパスがあれば教えてください。
山本:これまでは自分の関心の赴くままに動いてきたのですが、ENWと働くようになって、そうした考え方に少しずつ変化が生まれています。この組織には、「社会のために」「より良い未来のために」と考えて行動する人たちが多いのです。そうした職場環境が、私自身の社会に対する視野や関心を広げてくれました。これまで積み重ねてきた翻訳や言語に関する知見を基に、自分はどんな側面で社会に貢献できるか。その問いを常に自分の中心に置きながら、進むべき道を一つひとつ選択していきたいと思います。
(執筆:岩村 千明 コンテンツプロジェクトマネージャー/ライター)