【TSAレポート2023③】「個」を起点とする組織内コミュニティは、組織に何をもたらす?

2023 / 10 / 22 | カテゴリー: | 執筆者:宮原 桃子 Momoko Miyahara
組織内コミュニティのイメージ

(Illustrated by Akiko Totsuka)

エコネットワークス(ENW)の組織内コミュニティ「TSA(Team Sustainability in Action)」の歴史や活動、仕組みなどを紹介する連載シリーズ「TSAレポート2023」。第3回となる今回は、個を起点とする組織内コミュニティがあることで、ENWの組織にどのような影響や変化が生まれてきたかをお伝えします。コロナ禍を経てリモートワークやハイブリッドワークが浸透する中、個と組織の新たな関係性を模索する上で、組織内コミュニティの在り方がカギとなるかもしれません。


執筆:宮原 桃子

ENWでは、主に企業向けのサステナビリティ関連コンテンツ制作に取り組む。サステナブルに働くことを大事に考えており、サステナブルに働く・休む環境づくりなど「個」と「組織」が重なるテーマについてTSAとも連動して企画を進めている。


TSAとENWってどんな関係?

TSAは、ENWと仕事をするさまざまなパートナーが、サステナブルな働き方や暮らし方を志向する「個人」として集う学びと実践の広場です。第1回レポートでその歴史をご紹介したとおり、ENWのコミュニティ事業に位置づけられ、ENWとは独立したTSA事務局によって運営されています。運営予算はENWの年間売り上げの3%から拠出され、その使い道や計画はTSA事務局がTSAパートナーと協議しながら決めています。

財務上はENWのコミュニティ事業ではあるものの、独立して運営されているTSA。組織(ENW)と個(TSA)が、「個が輝くサステナブルな社会の実現」という共通の目標に向け、手を携えながら両輪で進んでいるのです。そんなTSAの存在は、ENWの組織運営や事業の在り方に、どのような変化やインパクトをもたらしているのでしょうか。

「余白」で視野・思考・経験が広がり、より良い仕事へ

仕事と余白のイメージ写真

(Photo by bongkarn via AdobeStock)

コロナ禍でリモートワークが一気に広まった中、多くの人がPCでの作業やオンライン会議で毎日が終わり、自身の業務だけで完結してしまうことが増えています。担当業務を超えたところにある余白、仕事とプライベートの間にあるような余白は生まれにくく、視野や思考が狭まってしまいがちです。

第2回レポートでご紹介したように、TSAでは業務に直結しないようなさまざまなテーマで、シェア会やファンド、部活などがオンラインを中心に行われています。こうしたプログラムへの参加によって、TSAパートナーの視野や思考の広がりが生まれ、仕事にも活かされる事例は多くあります。

例えば、あるTSAパートナーが「サステナビリティファンド」を活用して、生活者・消費者の立場から企業にエシカルを促す声を届ける「エシカルボイスプロジェクト」を立ち上げ、50以上の企業とやり取りをしました。賛同した複数のTSAパートナーが合流し、現在もTSA内で取り組みが続いています。参加者の一人からは、「個人としての視点から企業の取り組みを捉え直す機会となり、企業のサステナビリティ推進を支援する業務にも活かせる」とコメントが寄せられています。

また、エシカル消費に関心が高いパートナーが集まって企画した「アニマルウェルフェア(動物福祉)」の勉強会や関連書籍の読書会を経て、ENWでも企業向けに情報発信をすることにつながりました(記事はこちら)。その他、気軽なおしゃべり会であるTSAギャザリングは、「ウクライナ侵攻に向き合う」「意見の異なる人との向き合い方」など、仕事に追われて後回しになりそうな、でも大事なテーマについて立ち止まって考える機会となっています。

さらに、ENW代表の野澤 健さんは、業務への効果についてこのように話しています。

ENWで仕事をするパートナーが、TSAを通じて「個として」サステナビリティにまつわる実践や経験値を増やすことで、クライアントに対しても表面的でない説得力のある仕事を提供できます。こうしたことを通じて、クライアントからの共感が生まれています

業務を超えたところに「余白」を作るTSAの活動が、TSAパートナー一人ひとりの実践や視野の広がり、立ち止まる時間、深い思考につながっているのです。これにより、業務にも新たな視点やアイデア、取り組みをもたらす効果があると言えます。

「実りある雑談」で、信頼・安心感のある働きやすい職場に

(お誕生日会ギャザリングで、リラックスして楽しむTSAパートナーたち)

今、多くの企業で「リモートか出社か」といった議論が起きています。その背景には、リモート環境下で従業員間のコミュニケーションやつながりが希薄になっているという課題感があるようです。しかし、15年以上にわたりリモートワークを基本としてきたENWでは、TSAという場を活かしながら、TSAパートナー同士が信頼関係を築いてきました。

例えば「TSA給湯室」は、テーマを決めて話すほどではないけれど、ふと思い立った時に思うことを誰かと話したい、そんなニーズからスタートした取り組みです。Slackで呼び掛けて、ZOOMで集合しておしゃべりをします。その他に、「お誕生日会ギャザリング」と称する、毎月TSAパートナーの誕生日を祝う気軽な会も。業務から離れたちょっとした雑談こそが、お互いへの理解を深め、気軽に話せる関係性をつくります。

また、TSAには「居場所がある」という声も多く耳にします。サステナブルな社会や暮らし、働き方を目指したいという「共通項」のもと、シェア会やギャザリングなどの場で話すことで、業務を超えた個人としてのつながり・信頼・安心感が生まれ、居場所という感覚につながっているのです(詳しくはこちら)。

「実りある雑談」を通じて、業務を超えた人と人との関係性が深まり、居場所ができる。それは、まさに働きやすい組織環境につながっています。

「個」と「組織」がともに考える土壌が生まれる

サステナブルに休むための議論の資料

(サステナブルに休む企画では、個人と組織それぞれの観点から休む意義や課題、対策を議論)

さらに、TSAは、ENWと連携して「個」と「組織」が交わるテーマを考える場にもなっています。「サステナブルに休む」企画もその一つ。もともとENWがサステナブルに働くためのワークルールや仕組みを検討していた際に、TSAシェア会と連動し、1年間かけてTSAパートナーとともに「サステナブルに休む」というテーマで5回にわたり議論しました。意見やアイデアは、ENWのサステナブルに働く環境づくりに向けた施策検討に反映されています。TSAとの連携によって、組織内の一人ではなく「個」としての立場・視点をしっかり持ちながら、組織とともに組織の在り方を考える土壌ができているのです。

多様な人材と柔軟な関係性をつくる

エコネットワークスパートナーの集合写真

(ENWの集いの会の様子)

働き方が多様化する今、個と組織の間に絶対的な関係性はなくなっています。TSAパートナーにおいても、ENWで恒常的に仕事をする人もいれば、最近はENWとは仕事をしていない人、ENWを退職した人などさまざまな人です。ENW代表の野澤さんは、こう語っています。

それぞれの個人とENWの関係性は変化しながらも、TSAという場を通じて、サステナブルな働き方や暮らし方を志向するという共通項のもとにつながり続けることができています。組織にとっても、多様な人材と質の高い関係性が維持できるネットワークだと感じています

一般的には、組織内コミュニティとは、組織に所属する従業員を中心としたコミュニティを指します。しかし、フリーランスなどさまざまな形態で仕事をするパートナーが多いENWで、「組織内」とは所属や雇用関係を超えたより広い範囲を指しています。TSAは、こうした多様な関わりをする人たちが集う組織内コミュニティとして、個と組織の新しく柔軟な関係性を広げることができているのです。

組織内コミュニティとともに「個が輝く組織運営」を

従業員サークルやコミュニティは、時として、業務外の付属的な課外活動と位置づけられてしまうことがあります。しかし、組織内コミュニティの活動は、従業員の視野やアイデアの広がり、組織内のコミュニケーションや信頼関係の構築、個と組織のより良い関係性など、「個が輝く組織運営」につながっていくのです。その活動はあくまで個を起点・主体とし、組織の目線や枠で制約をかけないからこそ、従来の組織にない新しい変化や価値を生む可能性があります。こうした認識を組織全体で共有していくことで、持続的で活発な組織内コミュニティの運営ができ、ひいては組織づくりにより良いインパクトをもたらしてくれるのではないでしょうか。

次回はいよいよ最終回です。TSAを通じて、個人にどのような変化や影響があるか、さらには社会にどういったインパクトがもたらされているのかについて考えます。

このエントリーをはてなブックマークに追加