【TSAレポート2023②】組織内コミュニティの自律的な活動を支える仕組みづくり

2023 / 9 / 29 | カテゴリー: | 執筆者:山本 香 Kaori Yamamoto
TSAイラスト第2弾

(Illustrated by Akiko Totsuka)

連載第1回のレポートでは、エコネットワークス(ENW)の組織内コミュニティであるTSAについて、その歴史、今、これからの展望をまとめました。第2回となる今回は、自律的なコミュニティを目指すTSAでアイデアを具体的な形にしていく方法、また活動を維持・活性化させていくためのコツやノウハウを探ります。TSAで進めるプロジェクトの運営に関わる皆さんにお話を伺いました。


執筆:山本 香
愛知県大口町在住の翻訳者。TSAパートナーの取り組みから学びつつ、サステナブルな暮らしを楽しく実践していく方法を試行錯誤している。


「個」の想いと自主性を応援する場づくり

TSAでは、サステナビリティや仕事、暮らしについてTSAパートナーが持つ知識や視点を共有して学び合う「シェア会」を年間約10~15回(通算80回以上)オンラインで開催しています。TSAのお世話役を務める曽我 美穂さんは、2017年のシェア会立ち上げ当時を振り返り「TSAパートナーが気軽に学び合える機会を提供したいと思いつき、他のパートナーに相談したところ、具体的に話を進めることができた」と話します。

シェア会は、基本的に以下の手順で準備、開催しています。
① 会の企画者がホストとなり、TSAパートナーに告知
② 希望者間で日程調整
③ 会のスピーカーとなるゲストとホストで内容の打ち合わせ
④ 開催後、ホスト、ゲスト、参加者にそれぞれポイントを付与

TSAパートナーであれば誰でも会を企画でき、すべての手順をその企画者であるホストが中心となって進めます。TSAパートナー自らが企画を持ち込むこともあれば、コミュニケーションツールSlack上での何気ない雑談からシェア会に発展するケースも。現在シェア会全体の取りまとめをしている木村 麻紀さんは、「会として開催する/しないの基準は特に設けておらず、強い想いや問題意識を持つ人自身がやりたいことをやりたい形で実現することで、結果的に関わるすべての人にとって実りある場になる」と話します。

一方、立ち上げ当初からの難しさとして「ホストをする人が一部のTSAパートナーに限られる」点を曽我さんは指摘します。しかし、そうした課題を認識しつつも、TSAパートナーに対する積極的な働きかけはあまり行ってきませんでした。ホストには、それなりの時間と手間をかけて準備をすることが求められます。それでも熱意を持って取り組もうとする自主性をTSAでは何より大切にしているためです。

そして、これまでコンスタントに活動を続けてきた中で、徐々に会の開催形式や内容が進化し、ホストを担うTSAパートナーも増えてきました。例えば、外部から専門家をゲストとして招き一つのテーマを深掘りしたり、ENWで毎年寄付を行っている寄付先の団体からゲストを招いたり、といったコミュニティの枠を超えた試みが行われています。また、会への参加に応じて付与されるポイントがたまると、事務局から地方の美味しいものや嬉しい電子ギフトなどが届く「ポイントギフト制度」も参加意欲を後押しする工夫の一つです。それらの効果で関わる人も増えて活動は確かに広がりをみせています。

TSAパートナーの「知ってほしい」「学びたい」という想いを叶えられる場として定着したシェア会。組織内コミュニティで活動を立ち上げる際には、一人ひとりが業務から離れて自分の関心事を共有したい、仲間のことをもっと知りたいと思える雰囲気づくりが大切です。さらには、想いを持つ本人が自主的に動きつつ、その動きをコミュニティの仲間が応援し、後押しできる工夫を取り入れられるとよいでしょう。

先を見据えて、最初にしっかりとした土台をつくる

シェア会と並ぶTSAのもう一つの大きな活動が、今年6年目を迎える「サステナビリティファンド」です。個人のサステナブルな取り組みを資金面から応援する活動で、「有機カカオ豆を使ったチョコレートを商品化する」、「気候変動関連のワークショップに参加する」、「果樹園のオーナーになる」など、毎年バラエティ豊かな申請が寄せられています。さらに、結果を共有し合うことで交流が生まれたり、思わぬ活動に広がったりしています。

ENWの事業を通じて得た利益をファンドという形で還元しようと始まった活動ですが、2年目となる2018年にTSAで本格的に仕組みづくりを行いました。仕組みづくりをリードした藤原 斗希子さんは、「これから長きにわたって継続していくことを想定し、ある程度普遍的な土台を固めようと対象や利用条件などを他の担当者とともに検討した」と当時を振り返ります。

例えば、利用条件の一つとして、申請時に取り組む内容を提出し、実施後、取り組んだ内容をTSAパートナーに伝えることを決めました。これは、一人ひとりの自主的な取り組みを促し、そうして生まれた「しずく」を波紋として広げていくための仕掛けとして当初に定められたもの。運営していく上で必要な資料なども6年前に作成されたものがベースとして引き継がれており、一昨年からファンド事務局を担当する新海 美保さんも「引き継がれてきたものを活用して効率的に運営している」と話します。立ち上げ時にある程度先を見据え、大事なポイントを押さえてしっかりとした土台を作ることが、活動の継続やさらなる発展につながるカギと言えそうです。

募集要項

募集要項は毎年少しずつ手を加えながら使い続けている

バトンをつないで活性化を促し、地道なコミュニケーションで輪を広げる

もう一つ、事務局担当者の選定はファンド利用経験者からの立候補を基本とし、同じメンバーが担い続けることがないようにするというのが、立ち上げ当初から続く方針です。3年目から2年続けて事務局を担当した佐藤 靖子さんは、「何年か続けて関わるうちに自分の見方が凝り固まってくることもあるので、常に新しい人が運営に携わるのは大事」だと言います。また曽我さんも「いろいろな人が運営に関わって、そのバトンをつないでいくやり方」が活性化のポイントの一つだと感じています。

一方で、立候補がなかなか出ないという課題はありながら、関わり方の濃淡はそれぞれ、変化もあって当然、という一定のゆるさがTSAの特長でもあります。では、誰かが義務的に役割を担うのではなく、あくまで自主性に任せつつ、事務局としてできることは何でしょうか。事務局担当をやってみようと思ったきっかけを新海さんに聞くと、ご自身の環境や関心事が変化したタイミングで曽我さんから話があり、決意したとのこと。その経験から、「いろいろな人を巻き込んでいくには、一人ひとりに直接声掛けをするなどきめ細やかなコミュニケーションが有効な場合もあるのでは」と言います。また、TSAではほぼすべての活動をリモート環境で進めており、便利な面が多い一方、必要な情報を十分に伝えるという面では難しさもあります。ファンドの趣旨や内容をしっかりと伝えるためにも、コミュニティ全体への声掛けだけでなく、ときには一対一でやり取りをするなど、地道に丁寧なコミュニケーションを続けていくことが有効です。その結果、徐々に多くの人が関わるようになり、立候補が少ないという課題の解決にもつながることが期待されます。

複数のアプローチで大小さまざまな波紋を広げる

サステナビリティファンドが、個人が落とすしずくから波紋が生まれ広がっていく、次につながるアクションにつなげていくことを前提とした制度であることは前述のとおりです。3年目となる2020年に佐藤さんの発案で始まった「プチファンド」は、しずくにつながる一人ひとりのちょっとした取り組みを応援する仕掛けの一つ。1枠1~5万円のサステナビリティファンドに比べ1枠3千円と少額にして、より気軽に利用できるようにしました。「特別なことをしなくても日常生活をサステナブルにしていくことが大事だと思ったから」ときっかけを話す佐藤さん。これまでに、地元農家からジャガイモの種芋を購入して農のある生活を始めたり、タイのスラム街をコロナの影響から救うクラウドファンディングへの寄付に充てたりといった報告が寄せられています。佐藤さんの想いが個性ある形で具体的な取り組みにつながっています。

プチファンドの品々

プチファンドを利用して購入された品々

しずくを落としやすくするための仕掛けがプチファンドだとすると、取り組み内容を共有するという利用条件は、波紋を広げるための工夫と言えます。例えば、生活者・消費者の立場から企業などに対して「環境・社会問題にもっと取り組んでほしい」と声を届ける「エシカルボイスプロジェクト」。はじまりは、2名のTSAパートナーがサステナビリティファンドを活用して実施した取り組みでした。その報告が共感を呼び、現在はTSAのプロジェクトとして、多くの人を巻き込んで活動を継続しています。他にも、ファンドを利用してコンポストや家庭菜園をはじめる人が多く、その影響を受けて自らやってみる人も多いことから、これらは「部活」という形で情報交換を中心に活動が続けられており、大小さまざまな波紋がTSAのあちこちに広がっています。

リモート環境のメリットを活かし、新しいコミュニティのあり方を

コロナ禍を経てリモートワークが広がる中、単なる雑談をする機会がないなど、組織内コミュニティの活性化における難しさを感じている企業も多いかもしれません。オンラインを基本として活動を行うTSAでは、そうしたリモート環境ならではの難しさに対し、お互いを知る機会を持てるよう工夫をこらしています。その一環として開催しているのが、オンラインでの「誕生日会」や、いわゆる雑談の場である「ギャザリング」です。ギャザリングでは、子どもの英語教育、ウクライナ侵攻、家庭菜園など、顔を合わせれば自然と話題にのぼるようなトピックを設定して気軽に会話を楽しんでいます。リモート環境の最大のメリットは「誰でも気軽に、好きなタイミングで参加できる」ことだと曽我さんが語るとおり、こうした仕組みを考える上では「気軽さ」が重要な要素です。

コミュニティは、そこに属する一人ひとりによって形成されるものです。まずは、個人が自由に自分の「やりたい」を表現できる場であることが大切であり、その上で、お互いが自然な形で影響を与え合える仕組みが必要です。また、これからの組織内コミュニティを考える上では、リモート環境を前提に創意工夫をこらした制度設計も求められるでしょう。TSAは、これからもフットワーク軽く試行錯誤を繰り返しながら進化を続けていきます。

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