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【TSAレポート2023①】これまでの歩みとこれから
「TSAレポート2023」とは
2017 年から発行を始めたTSAレポート。今年は4回に分けた連載の形でTSAの活動を紹介し、仕組みづくりのアイデア、事業との相乗効果、社会へのインパクトなどについてまとめます。組織内コミュニティづくり実践の、ヒントとなれば幸いです。
【TSAレポート①】これまでの歩みとこれから
会社などの組織には、さまざまな関心や得意分野を持つ個人が集まっています。仕事を通した関係を超えて「個」がつながることのできる組織内コミュニティづくりは、特にリモート勤務が珍しくなくなってきた今、多くの組織の関心事ではないでしょうか。エコネットワークス(ENW)では、TSAという形で組織内コミュニティづくりを実践してきました。連載第1回の今回は、TSA設立に関わったENW代表の野澤 健さん、取締役の二口 芳彗子さん、そしてTSA全体のお世話役を務めている曽我 美穂さんのお話を通じて、TSAの歴史と今、これからの展望についてまとめます。
執筆:杉本 優
英国スコットランド在住の翻訳者。英国翻訳通訳協会(ITI)正会員。サステナビリティファンドを使った庭の池づくりや有機野菜づくり、風力発電所オーナー協同組合参加など、TSAを通じてサステナブルな暮らしに取り組む。
TSA誕生のきっかけ
TSAが生まれたのは2013年ごろのことです。コロナ禍を経た今では、リモート勤務という働き方も珍しくなくなりましたが、ENWでは、20年前の設立当初からメンバー全員がリモート。その多くは業務委託パートナーとしてプロジェクト単位で関わっており、関係性も人により濃淡がありました。そこで、直接顔を合わせることのない個人が、仕事の枠を超えてゆるやかにつながることのできる場として設立されたのがTSAです。二口さんは、「プロ意識が高い業務委託パートナーは、仕事にかける熱意や知見を蓄積したいという意欲が強く、プロジェクトでの関係だけで閉じてしまうのはもったいない。個人と個人がつながることで、ENWを介さなくても何らかの価値が生まれるのではないかという期待があった」と言います。
お世話役がTSA発展の原動力に
そうして誕生したTSAでしたが、当初はENWの事業全体に責任を持つ野澤さんや二口さんが、できる範囲で進めるという運営方法だったため、活動が途切れがちで細かなケアができないのが悩みでした。そこで、TSAの活動推進の役割を担うポストを設置し、ENWから報酬を払って業務を依頼する形が良いのではないかということで、2017年に曽我さんがお世話役として関わることになりました。曽我さんはそれまでもTSAメルマガの担当やシェア会などのホストとして関わることが多く、関係性に気を配りながら全体を見る立場にうってつけの人材。どうしたらみんなが参加してくれるかを考えて仕掛ける担当者が入ったことで、TSAの活動が安定し、活発になっていきました。
当初は、ENWとTSAの切り分けがあまりはっきりしていませんでした。ENW役員である野澤さんと二口さんが中心となって進めていたのも要因かもしれない、ということで、まず野澤さん、二口さんがTSAの運営に関するミーティングから抜け、中心に入らない形に変えていきました。これと同時進行で、TSAの定義をみんなで考え、ENWにおけるTSAの位置づけを定期的に話し合いました。その中で、「TSA=エコネットワークスのコミュニティ事業」という枠組みが明確になっていきました。同時にディスカッションを重ねる中で「サステナブルな働き方や暮らし方を志向する個人が集う、学びと実践の広場」というTSAの定義も決まっていきました。
心理的安全性の高いコミュニティづくり
お世話役を引き受けた時、曽我さんは「みんなにとって居心地の良いコミュニティであり続けるために、いろんな人のやってみたいことを実践できる場にしていきたいと思っていた」と言います。
オンラインコミュニティでは、投稿する人やイベントの参加者が固定化しがちという問題がありますが、曽我さんは、メルマガやスラックの発信でいつでもウェルカムな雰囲気をつくり、必要であれば個別で声掛けをして、なるべく多くの人が参加できるよう気をつけているそうです。声掛けの際には、その人が興味ありそうなことに関して誘うのがポイントです。こうした気配りの効果でTSAという場が確立され、活動が安定しました。2022年からは、1人のお世話役中心で回す事務局体制から、活動ごとにお世話役や担当を立て、みんなで運営するスタイルに変えています。
最初は仕事仲間という意識がメインだったTSAですが、つながりが強まっていく中で、ENWの仕事という関係性にとどまらず、お互いにコミュニケーションをし、一緒にアクションする場に進化してきています。世の中では、サステナビリティに関心のある人が増えつつあるとは言え、まだまだ少数派。でも、身近に仲間がいなくても、TSAの仲間同士でサステナブルな働き方、生き方を共有し支援し合う中で、サステナブルな暮らしを目指す取り組みを始めたり、周囲に広めたりと、行動する力が生まれます。TSAでは、自分が世の中に対しておかしいと感じていることも素直に表現できます。立場にかかわらず誰もが安心して率直に意見を交わすことができる「心理的安全性」の高さは、TSAの大きな魅力になっています。
現在の活動
現在、TSAで行っている主な活動には、以下のようなものがあります。
新しい活動は、シェア会やギャザリングでのやりとりや雑談で出た話がきっかけになることが多く、活動費がかからない場合は、とりあえずやってみようという流れになります。うまくいけばそのまま継続。活動費がかかる場合は、TSAミーティングの場やメルマガを通じて呼びかけ、異議がないかどうかを確認してから実行に移しています。基本はTSAの自主・自律が原則で、活動についてENWの承認を得る必要はありませんが、ENWのミーティングで定期的に活動報告や相談をしています。活動費はENWが規定する枠内で使い、毎年活動費の状況を共有しています。活動費を管理する「TSA通帳」は、参加者全員が見ることができます。
現在特に活発な活動は、関心のあるテーマについて知識を共有し意見を交換するオンライン勉強会「シェア会」と、それぞれがやってみたい取り組みを応援する「サステナビリティファンド」です。部活やSlackを通じた情報交換では、畑、農のある暮らしや食などが関心の高いテーマです。また、個人の取り組みが共感を集め、TSA全体としてのプロジェクト立ち上げにつながることもあります(詳しくは次回以降で紹介)。
一方、リモートでつながったコミュニティであるがゆえの難しさもあります。例えば、サステナビリティ関連の本を貸し借りする「TSA文庫」や不要になった品を欲しい人に譲る「あげますシステム」は、物理的に物を送る手間がハードルになってしまうのか、最近は活動が停滞気味。また、参加者が世界中に散らばっているためリアルで会うのが難しく、オンラインの活動でも、時差のため時間設定が難しいことがあるのが悩みです。とは言え、夜の方が参加しやすいという人もいるので、場合によっては同じテーマで昼夜2回開催するなど工夫し、参加できなかった人も学びを共有できるよう、議事録をシェアしています。
曽我さんは、「それぞれの自宅でのコンポストなど、個人の活動が雫となり、他のTSAパートナーにもサステナブルな暮らしの波紋が広っていくのを目の当たりにすると、TSAという場の意義を感じる」と言います。ふだんから仕事で関わっているかどうかは関係なく、仕事以外の場で、サステナブルな暮らしに関して意見や情報を交換できる場は、TSAパートナーにとって貴重な存在。サステナビリティファンドを通した取り組みが世の中にリアルなインパクトを起こしたり、TSAを通したつながりが仕事の場での関係性構築に役立ったりという効果も実感されています。さらに、TSAとENWの連動企画も生まれ、組織全体に影響が広がった事例もあります(詳しくは次回以降で紹介)。
これからの展望
TSAでは今後も基本的に、TSAパートナーから出た「これやってみたい!」という声を実現していく方針で進めていく、とのことです。
具体的な取り組みとしては、最近、TSAパートナー同士が実際に会って一緒にサステナブルな活動を行う際の補助制度が始まりました。「今のところまだ実現していませんが、この制度を通してリアルの場でのアクションが盛り上がってほしいと期待しています」と曽我さんは語ります。外部講師を招いてのシェア会も、好評なので開催を続ける計画です。さらに、シェア会の場をTSAパートナー以外にも開くなど、新しい風を入れようという声も出ており、少しずつ実現していく予定だそうです。
組織内で「個」がつながるコミュニティをつくり、盛り上げていくためには、とりあえず「やってみる」精神が大事だと、曽我さんは言います。トライ&エラーの精神で、誰かからアイデアが出たらまずはやってみること、そしてそのプロセスを楽しむことで、活動が広がっていきます。できるだけ多くの人が運営に関わることで多くの声がアクションにつながっていくので、1人でやろうとしないことも大事。そして、「社内」という枠自体があいまいになりつつある昨今、社内に囲い込んでしまわず開かれた場という意識を持つことも大切ではないでしょうか。TSAは常に発展途上。それぞれの思いやアイデアが「これから」を形作っていく、みんなの広場です。