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Interview: 東京都は、環境で、世界のステークホルダーとどう関与しているのか?

聞き手:小林一紀(エコネットワークス代表)
お話:酒井香菜子氏
東京都環境局 都市地球環境部
国際環境協力課 技術担当係長
【はじめに】
この9月、東京都を含む世界の10都市が、ある表彰を受けた。
C40(世界大都市気候先導グループ)とシーメンス社が主催する「大都市気候リーダーシップ賞」。
例えば、適応策とレジリエンス分野では、ニューヨークが。グリーンエネルギーでは、ミュンヘンが。廃棄物処理では、サンフランシスコが。ファイナンスと経済発展の分野では、東京都が表彰された。世界初の都市型キャップ&トレード制度の実施とその成果(制度開始2年目でCO2排出量を23%削減)が評価されてのことだ。東京都環境局は、この朗報を英語版facebookページで発信している。
東京都の環境への取り組みには、世界の他都市と比べどんな特徴があるのだろうか。そして、都市や国際機関を始めとする世界のステークホルダーと今どのように関与しているのだろうか。
国際環境協力課 技術担当係長の酒井香菜子氏にお話を聞いた。
インタビュー
●世界の大都市と比べて、東京都の取り組みの特徴とは?
気候変動対策が中心となっている。東京はエネルギーを大量に消費する大都市であるので、デマンド(需要)側からの取り組み、特に、ビルや建築物の高効率の省エネ化に力を入れている。アジアで成長する他都市も、ビルが多くエネルギーを大量に消費するという特徴が東京と似てきており、東京の取り組みが注目されている。
東京の目玉対策として、キャップ&トレードでの総量削減と取引制度づくりがある。これには特に中国の都市が関心を寄せている。中国は第12次5カ年計画(2011〜2015年)で、国の政策としてモデル2省5市(北京市、天津市、上海市、重慶市、広東省、湖北省、深圳市)での排出量取引市場のパイロット事業をうちだしている。東京は、天津、上海、深圳などと都市同士でのやりとりをしている。
●海外のステークホルダーとはどのようにやりとりを?
東京都が事務局を努めるANMC21(アジア大都市ネットワーク21)という会議体があり、そこにも積極的に参加し、研修などを行っている。
国際機関を通した活動としては、C40(世界大都市気候先導グループ)がある。61都市が参加しており、情報交換やディスカッションを行ってきた。現在はニューヨークのブルームバーグ市長が議長をつとめ、実際の活動につなげていこうと、分野ごとに特化したネットワークを立ち上げた。
気候変動には緩和策と適応策があるが、例えば後者ではヒート対策、治水対策などに特化したネットワークなどがある。東京都は、得意とする民間ビルの建築物省エネ分野でネットワークに参加している。
1、2ヶ月に一回、電話会議やウェビナーを行い、担当者が事例共有などを行い、毎回7〜8都市が参加している。他にも、海外のNGOの企画で、都市のベストプラクティスを共有する場にも参加している。

●こうした都市間の共同体で、リーダーシップを発揮する都市はどこなのだろうか。
例えばニューヨーク。ハリケーンサンディで被害を受けた影響もあり、今年は特に適応策に特化して力を入れている。ロンドンは、都市中心部以外は自動車乗り入れ禁止エリアをつくるなどの取り組みで先行している。
また、東京はビルでもテナントビルが多い。オーナーとテナントの関係があり、いまはオーナーを中心にみているが、テナントをいかに巻き込んで行うかも重要だ。ロンドンでは、省エネの効果も換算して家賃に入れていて、省エネ対策のメリット、デメリットをわかりやすくしている。こうしたマーケットを使った取り組みは、他にもサンフランシスコで進んでいる。
キャップ&トレード制度を宣言、実行している地域の集まりで、ICAP(国際炭素行動パートナーシップ)というものがある。現在30の国や州が参加しており、都市として、またアジアから唯一、東京都が入っている。
これまでは、制度を運営している地域同士のやりとりだったが、これからは新しく取り組むところを増やしていく。中国、中南米の自治体担当者、NPOなどを呼んでの2週間の研修を実施し、モデルケースの勉強を行う。東京都も講師として参加している。東京都は自力での削減に重きをおいているが、海外の地域はより経済的なスキームとして、取引の活発化に着眼している傾向がある。例えば中国は、NDRC(国家発展改革委員会)が都市担当者を連れてきた。取引をするときに税が発生する形であれば、自治体の収入源にもなる側面があり、その点も関心要素だ。

●東京都に求められる情報ニーズに変化は?
気候変動、大気汚染、廃棄物などについてよく情報を求められるが、聞いてくる主体が変わってきた。過去には都市の担当者が多かったが、最近は海外のNGO、民間企業からの問い合わせも増えている。
NGOではロンドンに本社を置くThe Climate Groupが気候変動について活動しており、3月に香港でワークショップを開催した。ドイツの財団も都内の省エネ施設、都市政策を研究しにきた。米国のGreen Building Councilという民間組織ともやりとりをしている。いかに民間にうまく関与してもらうか、彼らの基準であるLEEDに入っていない要素を日本の基準(Casbee)ではどうやっているかなどに関心を持っている。
政策分野の研究者からの問い合わせも増えている。省エネ対策で自治体がどれだけ国の政策に影響を与えるか、といったテーマが多い。
●今後、どのようなコミュニケーションや関わりが求められるだろうか?
その都市がどういう状況にあり、どういうところで困っているのか。同じ省エネ対策でも、都市によって、交通部門から行うのか、工場から行うのか。あるいは大気汚染対策から手をつけた方がいい場合もある。これまで様々な対策をつくってきた経験を元に、相手のニーズに応じて、提案をすることが求められる。
海外の都市のニーズを聞いていると、東京都が進んでいると自ら思っていることよりも、過去にやってきたことが役立つときもある。
また、キャップ&トレード制度を紹介するときでも、大切なのは実際に制度を導入する際、どこに気をつけなければならないかを意識している。どの都市も、導入以上に運用が大変だ。職員のキャパシティビルディングも大事で、東京都も経験を伝えられる。5年から10年後を見据えた協力が必要とされる。
ここ1、 2年で、国の見方も変わってきて、「都市が解決策をもっている」という声を聞くようになった。ICLEI(イクレイ-持続可能性をめざす自治体協議会)という組織がある。毎年、気候変動枠組条約の締約国会議(UNFCCC-COP)が開かれるが、ICLEIは地方政府の代表として唯一立場を認められている団体。東京都は、ICELIの出席枠を通して参加している。国単位での取り組みが進展しない中で、都市は実際に動ける、実施できる単位として、政府からも注目され、国同士の交流でも、都市間のプログラムをやっていこうという流れになってきて、都市の発言力が増していると感じている。
海外における東京都の主なステークホルダーは、同様の問題に直面する世界の他都市である。意志と実行力をもつ都市同士の共同体が生まれつつあり、東京都はそのなかでもリーダーの一つになっている。そしてその流れを見ながら、気候変動分野で活発なNGOが様々な働きかけを行っている。国や民間団体の動きもその流れと同期している。
ステークホルダーとの関与は益々増えていくだろう。他都市に影響を与え、他都市から学び、また他都市とともにリードする。それをNGOや国に働きかける。どこまでこの「他組織間の学習」を的確に進められるか。東京都の更なるリーダーシップに期待している。